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レポート
平山郁夫 ―仏教伝来と旅の軌跡
平山郁夫シルクロード美術館 | 山梨県
平山郁夫シルクロード美術館が開館20周年、記念展覧会で数々の名品を紹介
肉体的にも精神的にも追い詰められていた平山。画業の起点が《仏教伝来》
夫妻で何度もシルクロードを訪問。常設展ではシルクロードの数々の至宝も

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数々の抒情あふれる作品を描く一方で、東京芸術大学学長や日本美術院理事長など要職も務め、長く画壇を牽引してきた日本画家、平山郁夫(1930-2009)。平山の絵画作品と、平山夫妻が40年にわたって収集してきたシルクロードの美術品を展示しているのが、山梨県北杜市の平山郁夫シルクロード美術館です。

2004年に開館した平山郁夫シルクロード美術館は、今年で開館20周年。メモリアルイヤーを記念し、初期作からシルクロード各地を題材とした作品などの名品を紹介する展覧会が、同館で開催中です。


平山郁夫シルクロード美術館
平山郁夫シルクロード美術館


平山郁夫は1930年、現在の広島県尾道市生まれ。実家は熱心な仏教徒でした。平山は中学生時代には広島市内で被爆、生涯を通じて、仏の道と平和への祈りをテーマにした作品を制作することになります。

《行七歩》は第17回春の院展(1962年)で奨励賞を受賞した作品で、「仏伝シリーズ」の代表作の一つ。この作品の発表前にも2度の日本美術院賞(大観賞)を受賞しており、平山郁夫がまさに新進の日本画家として高い評価を得た時期の作品といえます。


《行七歩》1962年 32歳 平山郁夫美術館
《行七歩》1962年 平山郁夫美術館


同じ展示室では、平山夫妻が収集したガンダーラの仏伝浮彫(釈迦の伝記である仏伝の場面をあらわした浮彫)も展示されています。

平山郁夫はこれらの作品からインスピレーションを受け、自らの創作を高めていきました。


(左から)仏伝浮彫「四天王奉鉢」ガンダーラ クシャン朝 2-3世紀 / 仏伝浮彫「初転法輪」ガンダーラ クシャン朝 2-3世紀
(左から)仏伝浮彫「四天王奉鉢」ガンダーラ クシャン朝 2-3世紀 / 仏伝浮彫「初転法輪」ガンダーラ クシャン朝 2-3世紀


《求法高僧東帰図》は、金色を背景に仏法を伝える僧侶たちが東へ帰って行く姿を、緊張感ある姿で描いた作品です。

仏教は自然に伝播したわけではなく、有名無名を取り混ぜた無数の人に負われて、長い旅路の末に広まっていったことを表しています。


(左から)《求法高僧東帰図》1964(昭和39)年 34歳 平山郁夫美術館 / 《浄土幻想 宇治平等院》2005(平成17)年 75歳
(左から)《求法高僧東帰図》1964年 平山郁夫美術館 / 《浄土幻想 宇治平等院》2005年


1968年、平山夫妻は日本文化の源流をたどる旅として、初めてシルクロードの地を訪問。これを契機に毎年のようにシルクロード周辺諸国へと足を運びました。

ただ、後に政情は悪化した国もあります。偶像崇拝を禁じるタリバンは、2001年3月にバーミアン(バーミヤン)の大仏を破壊する暴挙を犯し、世界中に衝撃を与えました。

《バーミアン大石仏を偲ぶ》は、大仏破壊を報道で確認した平山が、その日の夜に描いた作品です。


(左から)《ガンジス河畔》1970(昭和45)年 40歳 / 《バーミアン大石仏を偲ぶ》2001(平成13)年 平山郁夫美術館
(左から)《ガンジス河畔》1970年 / 《バーミアン大石仏を偲ぶ》2001年 平山郁夫美術館


1979年に北京の故宮博物院で開催された「平山郁夫 日本画」展にあわせて、平山夫妻は中国を訪問。北京から河西回廊を経て敦煌まで足を伸ばしました。

敦煌文物研究所の所長と交流し、多くの窟でスケッチを行ったほか、石窟保護活動にも深く感銘を受け、この時から「文化財保護」の思いが芽生えたと言います。


(左から)《敦煌石窟九層楼》2007年 77歳 / 《敦煌 A》1980年 平山郁夫美術館
(左から)《敦煌石窟九層楼》2007年 / 《敦煌 A》1980年 平山郁夫美術館


中央公論社の月刊「海」は1969年に創刊された文芸誌。平山は1972年から表紙絵を担当し、休刊となった1984年まで掲載されました。

当初はシルクロードの人々や古美術などをテーマにしていましたが、1975年以降は群青を背景に金泥も用いて、四季折々の花鳥風月を精緻に描いています。


文芸雑誌「海」中央公論社 1972年~1979年
文芸雑誌「海」中央公論社 1972年~1979年


「道遥か」は、平山郁夫が自らの半生を振り返った、自伝的画文シリーズ。日経新聞の「私の履歴書」に連載したエッセーに、素描を加えたものです。

幼い頃の思い出、中学時代の被爆体験、文化財保護活動に身を投じるようになったいきさつなどが、味わい深い素描と文章で綴られています。


「道遥か」1991年
「道遥か」1991年


本展の目玉といえる《仏教伝来》は、1959年、再興第44回院展で発表された作品です。玄奘三蔵がインドでの長い修行から自国の中国へ帰っていく場面を、僧侶が白馬に乗りながら緑豊かな木々の中を通り抜ける姿で描きました。

当時、平山は被爆の影響などから、肉体的にも精神的にも追い詰められていましたが、この作品は大きな転機になりました。以降は、釈迦の生涯をベースにしながら実体験を反映させた「仏伝シリーズ」などを進めていきました。


《仏教伝来》1959(昭和 34)年 佐久市立近代美術館
《仏教伝来》1959年 佐久市立近代美術館


続いて、常設展示もご紹介しましょう。

美術館に入ってすぐの展示室は「シルクロードの仏たち」。平山夫妻はシルクロード各地で精力的に取材しながら、本物の美と接するための収集活動も進めていきました。

「シルクロードの画家」として名を馳せてからは、平山のもとに古美術品や考古資料が続々と集まるようになり、シルクロードコレクションも世界屈指のレベルに成長。これはすべて、平山郁夫シルクロード美術館に寄贈されています。


平山郁夫シルクロード美術館 展示室1「シルクロードの仏たち」
展示室1「シルクロードの仏たち」


展示室4では館蔵のシルクロードの美術品のなかでも、選りすぐりの名品が展示されています。

シルクロード交易が最も盛んであったササン朝ペルシアの銀器やガラス器をはじめ、唐代西域の組織物、シルクロード沿道の歴代王朝が発行したコイン、ガンダーラの金工品、古代オリエントの工芸品などを、順次入れ替えながら紹介しています。


平山郁夫シルクロード美術館 展示室4「シルクロードコレクション」
展示室4「シルクロードコレクション」


2階の大きな展示室6は、美術館を象徴するスペース。「大シルクロードシリーズ」の口火をきった大作、《シルクロード行くキャラバン》が展示されてます。

昼も夜も旅を続けるキャラバンを、一対の作品として描きました。

平山郁夫はパリ・オランジュリー美術館にあるモネの《睡蓮の間》から、展示室の壁面をシルクロードのキャラバンで埋め尽くそうと提案。4年の歳月をかけて、シルクロードの大空間を完成させました。


《シルクロード行くキャラバン 東・太陽》2005年
《シルクロード行くキャラバン 東・太陽》2005年


《パルミラ遺跡を行く・夜》2006年
《パルミラ遺跡を行く・夜》2006年


平山郁夫シルクロード美術館はJR小海線の甲斐小泉駅のすぐ近く。小淵沢駅からでもタクシーで10分程度です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年3月23日 ]




※ 追記:2024年5月9日

展覧会は会期途中で展示替え。5月9日(木)から、いよいよ注目作品の並列展示が始まりました。


(左から)《仏教伝来》1959年 佐久市立近代美術館 / 《パルミラ遺跡を行く(夜)》1960年 佐久市立近代美術館
(左から)《仏教伝来》1959年 佐久市立近代美術館 / 《パルミラ遺跡を行く(夜)》1960年 佐久市立近代美術館


《仏教伝来》は平山が母校の東京藝術大学で助手を務めていた1959年、29歳の頃に描いた作品。再興第44回院展に出品され、受賞には至らなかったものの注目を集め、経済的にも厳しい状況にあった平山の人生に一条の光を照らす傑作となりました。

新たに登場した《天山南路(夜)》は、翌1960年の作品です。旅の途中で疲れた僧侶が休息している姿を、ほぼ同サイズで描きました。

ともに佐久市立近代美術館が所蔵していますが、最近ではあまり並列での展示はされていません。後年の砂漠の作品とは異なるイメージの、若き日の平山作品をお楽しみください。



「大唐西域壁画」小下絵 晩年頃
《流水間断無(奥入瀬渓流)》1994年 64歳
平山郁夫アトリエ再現コーナー
スケッチブック 1950年代頃
会場
平山郁夫シルクロード美術館
会期
2024年3月23日(Sa)〜9月9日(Mo)
会期終了
開館時間
10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日
※会期中無休
住所
〒408-0031 山梨県北杜市長坂町小荒間2000-6
電話 0551-32-0225
公式サイト https://www.silkroad-museum.jp/
料金
一般1,200円、高大生800円、小中学生無料
展覧会詳細 「平山郁夫 ―仏教伝来と旅の軌跡」展 詳細情報
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