今から100年前、「木喰仏(もくじきぶつ)」の美しさに心を奪われた思想家の柳宗悦は、陶工の河井寬次郎らとともに全国調査に出かける中で「民衆的なる工芸」について「民藝」という言葉を創出しました。手作りの魅力や市井の人々が生活に用いるものに無名の美を見いだし、新たな価値を与えること、それが「民藝」です。
京都から全国に広がり、衣食住の生活全般に宿る美の数々が、今、京都市京セラ美術館に詰まっています。

特別展「民藝誕生100年ー京都が紡いだ日常の美」展示風景 手前:木喰上人《地蔵菩薩像》1801年 日本民藝館蔵
江戸時代後期の僧、木喰上人(もくじきしょうにん)は、全国各地を回って修行し、仏像を彫り奉納しました。その柔和な「微笑仏」が柳宗悦を魅了し、民藝運動の原点となります。

特別展「民藝誕生100年ー京都が紡いだ日常の美」会場入口
右の三体は、専門家から最高傑作と評される京都・清源寺に伝わる秘仏の御出座し。

特別展「民藝誕生100年ー京都が紡いだ日常の美」展示風景
1927(昭和2)年、新作民藝の制作集団「上加茂民藝協団」が発足。1929年には京都大毎会館で作品展が開催され、2日間で200から300点が売約される人気ぶりだったとのこと。
今見ても美しく魅力的な作品が並んでいます。

黒田辰秋 右《朱塗透彫文円卓》1928年、左《朱塗三面鏡》1931年 いずれも日本民藝館
1939(昭和14)年、柳に誘われた芹沢銈介は、初めて沖縄を訪れ、本場の紅型を学びました。その時にスケッチした沖縄の壺屋の窯とその風景を活かした作品です。 “寄り”で見ると、美しい色と繊細なデザインに釘付けです。

芹沢銈介 左《型染壺屋風物文着物》、右《型染紙漉村文着物》 いずれも1968年 京都国立近代美術館【前期展示:10/26まで】
柳宗悦と棟方志功の師弟関係は良く知られています。1936(昭和11)年の日本国画会展で二人は衝撃的に出会い、即刻、日本民藝館の買い上げとなる棟方の版画《大和し美し》も本展に出品されていますが、こちらの作品は、日本国画会展の一週間後に、棟方が河井寛次郎の「鐘渓窯」に滞在した後に制作されました。棟方の熱量が伝わってくる作品です。

棟方志功 版画《鐘渓頌》1945年 雪梁舎美術館寄託

第4章 展示室風景
力強さとバランスと和洋折衷、描かれているモチーフを興味深く鑑賞した作品。

バーナード・リーチ 《生命の樹》1928年 京都国立近代美術館
京都には民藝運動の支持者も多く、なぜか?お腹が空いてくる最終コーナーにかけては、民藝風の建築設計や調度品など興味深い展示が続きます。なかでも、陶芸と建築設計の二足の草鞋を履いた上田恒次による民藝建築「松乃鰻寮(旧松乃茶寮)」の資料は見逃せません。
京菓子の「鍵善良房」では、棚や岡持ち、最近まで使用されていた葛切り用の螺鈿の器などを黒田辰秋が制作しました。

(左から)書:河井寛次郎、額:黒田辰秋
、書「くづきり」1956年、黒田辰秋《赤漆宝結文飾板》1932-1935年 いずれも鍵善良房

黒田辰秋《螺鈿くずきり用器、岡持ち》
1932年 鍵善良房
牛肉水炊き(しゃぶしゃぶ)の「十二段家」二代目主人は、無名だった棟方志功を支援し、店内には棟方が描いた襖絵や掛け軸、民藝の品々が飾られています。

左:上田恒次《色絵大皿》1980、右:現在も使われる銅製の火鍋子(西垣光温のデザイン) 十二段家
さて、特設ショップでは、人気染色家・石北有美さんによる限定デザインの手ぬぐいはじめ、展覧会オリジナルグッズ、器やかごバッグなど各地の民藝品も充実していて、お買い物も存分に楽しめます。

ミュージアムショップ
展示作品は約180点、一部展示替えがあります。
展示作品は約180点、一部展示替えがあります。 生活者の衣食住にさりげなく存在し、主張しすぎない美しさは、時を越えて心に響くのが「民藝」の魅力ではないかなと思いました。 心地よい暮らしのヒントにもなる展覧会へ、ぜひお出かけください。
[取材・撮影・文:hacoiri / 2025年9月18日]