エミール・ガレ(以下ガレ)のガラス作品を中心に紹介してきたみらい美術館ですが、今回は珍しい陶芸作品に注目しています。さらに光の演出を工夫し、透明感や陰影の美しさを際立たせた展示となっています。光の演出にスポットをあて作品の魅力を紹介します。

展示風景:陶器とガラスの展示
エントランスの光の演出
今回は、展示室内よりもエントランスの展示に力を入れているとのことでした。展示されている作品は、これまでもお馴染みのガレ没後の工房作品です。しかし目の慣れたリピーターの方たちから「初めての展示ですか?」と言われるほど新鮮な驚きを与えています。スポットの光に注目してみましょう。

紫陽花文花器 ガレ 1918‐1931年ごろ
紫陽花の細やかな造形表現が浮かびあがります。花瓶の下部の黄色い紫陽花は、背後の光を透過した表情の違いです。

繊細な紫陽花と、背後の光を透過した状態(花瓶下部)
上から覗き込むと、背後の光を透かして見える内部の紫陽花が浮かび上がります。展示の高さが低くなると視点が変わり、見下ろすことで見える世界が変化します。

花器内部を、背後からの光で見る
この展示室では、スポットライトが作品のナビゲーションをしており、注目ポイントを示しています。見慣れた作品でも気づかなかった繊細な造作が浮かび上がり、独立ケースを周回するとさらに光によって七変化するガラスの美しさが際立ちます。

エントランス展示室 展示風景:スポットライトを当てる部分に注目
透明ガラスの陰翳と透過
こちらはガレの初期のエナメルガラスです。透明なガラスを透過する光が作りだす造形を楽しめます。

初期のエナメル彩作品
展示面に映し出された十字の光は、カエルの上の十字の文様を映し出しています。ガラスの凹凸と、透明ガラスを通る光が作り出す文様。他の作品も作品台に光の造形が映し出されています。

北斎漫画蛙文栓付瓶 エミール・ガレ 1880年頃
ガラス面に施された葉の繊細さ、口の造形が際立っています。そこに当てているスポットライトが、展示台に美しい影を結びました。

春の植物文三口花器 エミール・ガレ 1890年
光の演出による発見
照明の当て方も注目してください。スポットで浮かび上がらせる一方、裏側はサイドからの光を作品の半面に当てています。それによってガラス表面を加工したざらざら感が際立ちます。その光の間に潜む蜜蜂に目をやると周りには、目を凝らしてやっと見える蜘蛛の巣が張り巡らされています。花器の下部は、ざらざらとツルツルガラスの対比。作品の新たな見方をライティングで指南してくれているようです。

蘭に蜜蜂文花器 ドーム兄弟 1905年頃
みらい美術館のアイコンとも言えるフランスの薔薇。これまで何度も紹介されました。

フランスの薔薇文大壺 エミール・ガレ 1902年頃
今回は四隅から強い光が当てられ、蕾回りの細かな細工もより鮮明に確認ができます。

蕾の周りの細工が光によって浮かび上がる
葉の葉脈だけでなくその周りの繊細な造作など、これまで気づかなかったガレの芸術世界が引き出されました。

葉脈とその周りの繊細な造作
隠れ家のような小さな美術館。毎回、新たな作品が展示される一方で、同じ作品も繰り返し展示されてきました。「またか」と思われないよう工夫を凝らしており、今回は特に光の演出に力を入れたそう。その展示は作品をいかに見るかというヒントを与え、美術史の工芸におけるガレの功績を見直す機会にもなりました。
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2025年10月11日 ]