森美術館が3年に一度開催する「六本木クロッシング」。第8回となる今回は「時間」をテーマに、21組のアーティストが絵画、彫刻、インスタレーション、工芸など多彩な表現で現代を見つめます。
混沌とする今をどう受け止め、どう表すのか。その視点が交差する展覧会です。

森美術館「六本木クロッシング2025展」会場入口
では、印象に残った作品をいくつか紹介しましょう。
沖潤子(1963−)は、祖母や母から受け継いだ古布、骨董市で出会った衣類を刺繍で再生させる作家です。古い布に刻まれた他者の時間に、自身の時間と想いを重ねるように、一針ずつ縫い進めます。
本展では新作《進化》を含む20点を展示。床には全国から集まった約7千個の糸巻きが敷き詰められ、交わる時間が風景として立ち現れます。

沖潤子 展示風景:「六本木クロッシング 2025 展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年
桑田卓郎(1981−)は、陶芸の伝統技法を意識的に強調し、新たな解釈を示してきました。釉薬のひび(梅花皮)や石爆といった偶然性の美を、意図的にコントロールしながら造形します。
古来から続く技法を踏まえつつ、現代の感覚を呼び起こす造形は、陶芸の未来を探る挑戦そのものといえます。

桑田卓郎 展示風景:「六本木クロッシング 2025 展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年
廣直高(1972−)は、自分の身体を完全には見ることができないという状況に着目し「見る・見られる」の関係を揺らす作品を制作しています。
ブロンズの等身大彫刻は、一定の姿勢のまま身体にシリコンを塗布する工程から生まれたもの。無意識の微かな動きが刻まれ、私たちが身体をどう捉えているのかを静かに問いかけます。

廣直高 展示風景:「六本木クロッシング 2025 展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年
A.A. Murakami(2011年結成)は、自然現象を新しい体験へと変換するユニットです。霧やシャボン玉などをテクノロジーで制御し「儚い技術(エフェメラル・テック)」を追求しています。
本展最大の注目作品が《水中の月》。樹木のような彫刻から落ちるシャボン玉が水面で跳ね、弾ける光景が広がります。月や花吹雪を思わせる美しい現象は、AIによって目に見えない形で制御されており、彼らはこれを「PAI(フィジカルAI)」と呼んでいます。

A.A. Murakami《水中の月》 展示風景:「六本木クロッシング 2025 展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年
ズガ・コーサクとクリ・エイト(2009年結成)は、段ボールで実在の風景を再現するユニットです。本展では六本木駅の出口を昼と夜の二場面で制作。展示室に突然現れる駅の風景が、時間のずれとユーモアを生み出します。
段ボールの継ぎはぎや大胆な筆致は、小さな頃の創作の記憶を思い起こさせます。素朴な素材だからこそ、日常の感情や記憶の脆さと尊さが浮かび上がります。

ズガ・コーサクとクリ・エイト 展示風景:「六本木クロッシング 2025 展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年
和田礼治郎(1977−)は、生と死、時間と存在をテーマに、素材の特性を生かした作品を制作しています。新作《MITTAG》は、真鍮のフレームとガラスの間にブランデーを満たした作品で、液体越しの東京の風景が褐色に歪んで見えます。
「正午」を意味するタイトルどおり、光が最も高く届く瞬間の象徴として、時間の永遠性と刹那性を重ね合わせています。発酵や蒸留のプロセスにも、作家は生と再生のイメージを見出しています。

和田礼治郎《MITTAG》 展示風景:「六本木クロッシング 2025 展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年
北澤潤(1988−)は、人々と協働しながら生活や共同体の新しい形を探る活動を展開してきました。「フラジャイル・ギフト」は、インドネシアで見つけた旧日本軍機「(中島キ43)」をきっかけに始まった長期プロジェクトです。
竹や布など壊れやすい素材で実物大の機体を再構築し、記憶や歴史と向き合う試みを進めています。今回の展示《フラジャイル・ギフト・ファクトリー》では、記録資料とともに、北澤自身が月に一度滞在して制作を続ける「作業の場」が示されています。

北澤潤《フラジャイル・ギフト・ファクトリー》 展示風景:「六本木クロッシング 2025 展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年
アメフラシ(2015年結成)は山形県長井市を拠点に活動するコレクティブです。地域の文化を育むという思いから、土地や人々の営みに寄り添った作品を制作しています。
《Kosyauの壁を移築する》では、自身の拠点「こしゃう」(山形の方言で「つくる」の意)の木材を用いたインスタレーションを展示。活動の記録や土地の風景を思わせるモチーフが描かれ、丁寧に受け継がれる地域の時間が感じられます。

アメフラシ《Kosyauの壁を移築する》 展示風景:「六本木クロッシング 2025 展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年
木原共(1994−)は、実験的なゲームを通して社会規範や技術の影響を探るアーティストです。《あなたをプレイするのはなに?》では、AIが生成した架空の「誰か」の人生を追体験します。
人生の岐路で選ばなかった道に戻れる点が特徴で、他者の選択や時間を想像するきっかけを与えてくれます。データの裏側にある不公平や構造的な問題にも、自然と目が向かいます。

木原共《あなたをプレイするのはなに?》 展示風景:「六本木クロッシング 2025 展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年
時間をめぐる多様な視点が重なり合りあう展覧会。作品を通して、私たち自身の「時間の感じ方」も揺さぶられるはずです。ぜひ会場で、この豊かな交差を体感してください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年12月2日 ]