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報道と芸術を融合「W.ユージン・スミスとニューヨーク」(読者レポート)
東京都写真美術館 | 東京都

東京都写真美術館 会場
東京都写真美術館 会場


東京都写真美術館では3月17日から、20世紀を代表するアメリカの写真家、W. ユージン・スミスの個展を開催しています。

ジョニー・デップが制作/主演した映画『MINAMATA-ミナマタ-』のモデルになった写真家といえば、記憶に新しいかもしれません。映画のタイトルになっているように、1970年代の日本の産業公害病である水俣病を取材し、記録したジャーナリストとして日本で知られていますが、今回の展覧会では、ジャーナリストではなく、“W. ユージン・スミス“という芸術家としての一面にフォーカスした内容になっています。

W. ユージン・スミスにとって、写真とはどんな意味をなしていたのか。 写真を通して花開いていく、彼の芸術性の真髄に触れるような展覧会をご紹介します。


ウィチタ・イーグルの雑誌など当時の貴重な資料を公開
ニューヨーク・タイムズの雑誌など当時の貴重な資料を公開


メインテーマへの入り口として、最初のセクションでは、W. ユージン・スミス(以下ユージン・スミス)の高校生の時の貴重な資料が紹介されています。高校生の時に地元の雑誌に写真が掲載されたことから、報道写真家としての歩みが始まります。

自分の父親の自死に関する報道を通して、当時の感情を顧みないジャーナリズムのあり方に疑問を感じ、事実の記録を超えた「生きること」の記録へと向かっていきます。第二次世界大戦中はグラフ雑誌『ライフ』の特派員として沖縄などの激戦地に帯同し、戦地で生きる人々の様子を撮った写真も展示されています。


ロフト時代の展示風景(ジャズミュージシャン)
ロフト時代の展示風景(ジャズミュージシャン)


1954年に『ライフ』誌を退き、拠点をニューヨークへ。 たくさんの芸術家が集まるマンハッタンのアパート「ロフト」に移り住み、世界中を駆け巡っていたジャーナリストとしての暮らしから、ロフトからほとんど出ない暮らしに切り替えます。

ジャズミュージシャンや画家、同業である写真家など多彩な芸術家たちと交流し、中でもロフトで頻繁に行われるジャム・セッションはユージン・スミスの生活の一部であり、当時の彼のライフワークとして写真に残しています。


ロフトの壁に貼られたメモを再現
ロフトの壁に貼られたメモを再現


ユージン・スミスの撮った写真がレコードジャケットに使用されています。
ユージン・スミスの撮った写真がレコードジャケットに使用されています。


報道写真家として人間の生と死に向き合って来たのちに、人間として生きることへの問いを、ロフトの交流を通じて模索していたのかもしれません。

アトリエの窓から垣間見える道行く人の様子や、ロフトで交流する身近な人々の様子を写真や録音機に収め、暮らしの中のかけがえのない時間の一瞬を見事に切り取っています。


<私の窓から時々見ると・・・>より 1957-59年頃
<私の窓から時々見ると・・・>より 1957-59年頃 ©Aileen Mioko Smith


<私の窓から時々見ると・・・>より 1957-59年頃
<私の窓から時々見ると・・・>より 1957-59年頃 ©2026 The Heirs of W. Eugene Smith


会場ではユージン・スイスが録音した音声を流しているせいか、写真を見ていると、街のざわめきやロフトの熱気を感じられ、同じ時間を生きているような感じがしました。 ロフト時代の時間とは、ユージン・スミスにとって、自分をもう一度生き直すような再生の時間だったのかもしれません。


展示風景
展示風景


「記録」から「表現」へ。

ロフト時代を経て、写真の意味を大きく変換したユージン・スミスは、報道と芸術を融合させた写真家として挑んでいきます。

自ら企画・構成した回顧展『Let Truth Be the Prejudice』の一部を再現したセクションでは、壁をダイナミックに使った展示の配置に目を奪われました。たとえば、ヘリコプターの写真は上の方に、お墓の写真は下の方に配置されていて、それはまるで写真家が捉えた心の動きを、写真を観る者が追体験をしているような気持ちになります。


«無題(水俣湾の漁)»<水俣>より 1972年
«無題(水俣湾の漁)»<水俣>より 1972年


ユージン・スミスの最後の代表的なシリーズ〈水俣〉は、「報道と芸術表現は本来切り離せない」という自身の写真観を表現したものになっています。 実際に水俣に移住し、水俣病に闘う人々と暮らす中で、彼らの生きている姿と直面している出来事を捉えていきました。

困難な事実を伝えている写真にも関わらず、彼の写真はどこか優しさを感じられます。ユージン・スミスと共に水俣を撮影してきたパートナーであるアイリーン・美緒子・スミスさんの話によると、彼が「前世はこの地域の人だった」と信じていたからかもしれません。


展示風景
展示風景


内容以上に印象深かったのは、リズミカルな写真の配置です。それはまるできれいな旋律を奏でているような、心地よい印象を与えました。

音楽ーとりわけジャズーを愛したユージン・スミスは、アトリエでも常に音楽を聴きながら作業していたそうで、彼を取り巻く空気感のようなものを写真を通して感じられました。

芸術にどっぷり浸かった「ロフト」時代があったからこそ、ジャーナリズムに感情を乗せるという表現を獲得し、人々を魅了する写真に昇華することができたのでしょう。

東京都写真美術館では、この展覧会に伴い、「MINAMATA ―ミナマタ―」や「ジャズ・ロフト」の映画上映や様々なイベントを開催予定です、ぜひ足を運んでみてください。


東京都写真美術館 入口 アイリーン・美緒子・スミスさんとサム・スティーブンソンさん
展示室ロビー アイリーン・美緒子・スミスさんとサム・スティーブンソンさん


[ 取材・撮影・文:Ai Mera / 2026年3月16日 ]

会場
東京都写真美術館
会期
2026年3月17日(Tu)〜6月7日(Su)
開催中[あと28日]
開館時間
10:00~18:00(木・金は20:00まで)
入館は閉館の30分前まで
休館日
毎週月曜日(5/4を除く)および5/7(木)
住所
〒153-0062 東京都目黒区三田1-13-3  恵比寿ガーデンプレイス内
電話 03-3280-0099
料金
一般 700円
学生 560円
高校生・65歳以上 350円
展覧会詳細 W. ユージン・スミスとニューヨーク 詳細情報
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