[PR]
民藝運動の中心的人物である、河井寬次郎(1899-1966)と濱田庄司(1894-1978)。若き日に出会い、生涯にわたって影響を与え合いました。
今年で開館30周年を迎えたアサヒグループ大山崎山荘美術館では、両者の作品を対比しながら紹介し、それぞれの個性と共通する美意識を読み解く展覧会が開催。民藝の理念である「用の美」を体現する作品群を通して、二人の創作の軌跡をたどります。

アサヒグループ大山崎山荘美術館
展覧会は4章構成で、第1章「民藝前夜」では、河井と濱田の出会いと、その背景となる時代状況を紹介します。大正期には社会運動が活発化し、白樺同人の活動が若者に影響を与えました。
河井と濱田は、東京高等工業学校の先輩・後輩という間柄。ふたりはともに京都市陶磁器試験場にも勤務しました。
英国でスリップウェアの作陶に成功した濱田は、関東大震災を契機に帰国。河井と再び交流を深め、京都に滞在していた柳宗悦も加わり、三者の関係が結びついていきました。

第1章「民藝前夜」
第2章「民藝誕生」では、「民藝」という運動が広がる過程をたどります。1926年、柳らは日本民藝美術館設立趣意書を発表。三人は各地を巡り、工芸品の調査と収集を進めます。
1928年の大礼記念国産振興東京博覧会(東京·上野公園)に、理想の生活空間を具現化した「民藝館」を出品。これは、民藝の理念が初めて空間として示された場と位置づけられます。

第2章「民藝誕生」
ルノワールやロダンを日本で初めて本格的に紹介したのは雑誌『白樺』でした。同人たちは芸術だけでなく、その生き方にも価値を見出しました。
芸術は理想の人間像と結びつけて紹介され、若者に影響を与えました。この視点は、工芸の価値を見直す動きとも共鳴していきます。

(左から)オーギュスト・ルノワール《浴女》1896年、オーギュスト・ロダン《考える人》1880年(原型)
会場ではトピック「健康な美」として、無名の工人によって生み出された日常の器に宿る美が取り上げられています。柳、河井、濱田の三人は、京都の朝市や各地での収集を通じて、雑器に新たな価値を見出しました。
展示では、楢岡(秋田)、丹波(兵庫)、小鹿田(大分)など各地の作例に加え、朝鮮王朝の陶磁も紹介。地域ごとの技法や風土の違いはありますが、彼らによって見出された「健康な美」は共通しています。

トピック「健康な美」
安藤忠雄設計による新棟、「夢の箱」(山手館)で展開される第3章「山本爲三郎と二人 三國荘を中心に」は圧巻。コンクリート打ち放しの展示室に、二人の作品がずらりと並びます。
博覧会に出品された「民藝館」は、出品を支援した朝日麦酒(現アサヒグループホールディングス)初代社長の山本爲三郎の邸内に移築。「三國荘」と名付けられ、初期民藝運動の拠点として機能しました。
会場には、当時の三國荘の写真も展示。写真に写っている作品もいくつか展示されていますので、会場内で探してみてはいかがでしょうか。

第3章「山本爲三郎と二人 三國荘を中心に」
トピック「古作に倣う」では、古作にならって高い技術を習得していた河井の創作に焦点を当てます。
「本歌取り」ともいえる作品を手がけた河井ですが、古作をそのまま写すのではなく、再構成する姿勢が特徴的。伝統は新たな形で再解釈されていきました。

トピック「古作に倣う」
第4章「それぞれの道」では、戦時下と戦後の展開を扱います。河井は思索と造形へ、濱田は制作と普及へと活動を広げました。
異なる道を歩みながらも、両者の交流は続きましたが、ふたりの良き理解者であった山本爲三郎が1966年に没すると、同年に河井も死去。最晩年まで創作を続けた濱田も1978年に亡くなりました。
それぞれの拠点は現在も公開され、活動の軌跡を今に伝えています。

第4章「それぞれの道」
展覧会ではユニークな投票企画「どう?湯呑 Do You know me?」も実施中です。
並んでいる26点は、濱田による湯呑。日常の器としての湯呑は、最も身近な焼き物の一つです。多様な技法と釉薬が試された湯呑の数々、ぜひ会場で、お気に入りを探してみてください。

「どう?湯呑」
トピック「大山崎山荘と民藝」では、建築と美意識の関係を扱います。大阪の実業家・加賀正太郎が手がけた大山崎山荘。同じ関西の経済人であった山本爲三郎も、この山荘を訪れています。
展示されている濱田庄司の《柿釉蓋物》は、加賀の没後に千代子夫人から山本に贈られたものです。

トピック「大山崎山荘と民藝」 濱田庄司《柿釉蓋物》
また、最後に本館 2 階の喫茶室にも作品がありますので、お見逃しなく。
美術館の「地中の宝石箱」(地中館)では、「開館30周年記念 没後100年 クロード・モネ展」も開催中です。
美術館が所蔵するモネ作品全8点を、開館30周年の1年間をとおして全点展示。「共鳴 河井寬次郎×濱田庄司 ―山本爲三郎コレクションより」の会期中は、Ⅰ期の6点が展示されています。安藤忠雄がモネ作品を展示するために設計した空間で、モネの作品に囲まれるぜいたくなひとときを楽しめます。

「開館30周年記念 没後100年 クロード・モネ展」
河井寬次郎と濱田庄司の関係を軸に、民藝運動の成立と展開をたどる展覧会。日常の器に宿る美を見出す視点は、現代の生活にもつながるものです。
民藝という思想を、実作を通してあらためて考える機会となりそうです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫、坂入美彩子 / 2026年3月22日 ]