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レポート
“音が見える絵画” ─ 国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」(レポート)
国立西洋美術館 | 東京都
リトアニアを代表する芸術家チュルリョーニス。絵画と音楽を横断する世界
象徴的イメージや宇宙的モチーフによる精神的な世界観を示す約80点を紹介
代表作《レックス(王)》日本初公開。視覚と音楽を結びつけた創作を体感

リトアニアを代表する芸術家ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875-1911)。絵画と音楽の両分野で独自の表現を築いた存在です。

「チュルリョーニス展 内なる星図」は、その創作の全体像に迫る本格的な回顧展。会場では絵画や楽譜資料に加え、音楽的構成をもつ作品を紹介。自作曲も流れ、視覚と聴覚を横断する表現を体験できる構成です。


国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場入口
国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場入口


1875年、リトアニア南部に生まれたチュルリョーニスは、音楽家の父のもとで育ち、ワルシャワ音楽院で作曲を学びました。

1904年にワルシャワ美術学校へ進み、本格的に画業へ移行。創作は約6年という短い期間でしたが、300点以上を制作し、絵画と音楽の融合という主題を一貫して追求しました。

初期作《森の囁き》は、暗い森の木々が抽象的なシルエットとして描かれた作品、木立は竪琴の弦に、風の動きは音の響きに重ねられ、視覚と聴覚の対応関係がすでに示されています。


国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より 《森の囁き》1904年
《森の囁き》1904年


第1章「自然のリズム」では、故郷リトアニアや旅先の自然を主題とした作品を紹介します。写実的描写ではなく、自然の生命や循環が象徴的なイメージとして表現されています。

1905年のコーカサス旅行の記憶をもとに描かれた《山》では、巨大な山塊が波や人物の横顔にも見える不定形として現れます。


国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より 《山》1906年
《山》1906年


《春のモティーフ》は、四季の移ろいを描いた連作の一部です。春の訪れは鐘の音とともに示され、雪解けの大地に生命が満ちていきます。

樹木の変化を軸に、芽吹きから開花へと至る過程が連続的に示され、自然の循環が主題として表現されています。


国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より 《春のモティーフ》1907年
《春のモティーフ》1907年


第2章「交響する絵画」では、音楽と絵画の関係が主題となります。チュルリョーニスは色彩の共感覚ではなく、音楽の構造そのものを絵画へ応用しようとしました。

画面は複数の層に分節され、各層が声部のように呼応しながら、時間的な展開をもつ空間を形成します。

《第3ソナタ(蛇のソナタ)》は四楽章から成る連作で、蛇は太陽女神の使者であり叡智の象徴です。

反復される曲線はリズムを生み、画面全体に音楽的な構造を与え、生命の連続性を可視化しています。


国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より (左手前)《第3ソナタ(蛇のソナタ):アレグロ》1908年
(左手前)《第3ソナタ(蛇のソナタ):アレグロ》1908年


《第5ソナタ(海のソナタ)》は、バルト海沿岸での滞在を背景に制作されました。波や泡、琥珀の粒がリズムを生み、楽章ごとに異なる展開を示します。

最終楽章では大波とともにさまざまなモティーフが集約され、連作全体が統合されます。北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》を想起させる構図も見どころです。


国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より (左から)《第5ソナタ(海のソナタ):アレグロ》1908年 / 《第5ソナタ(海のソナタ):アンダンテ》1908年 / 《第5ソナタ(海のソナタ):フィナーレ》1908年
(左から)《第5ソナタ(海のソナタ):アレグロ》1908年 / 《第5ソナタ(海のソナタ):アンダンテ》1908年 / 《第5ソナタ(海のソナタ):フィナーレ》1908年


第3章「リトアニアに捧げるファンタジー」では、民族的意識と精神世界が交差する作品を紹介します。ロシア帝国支配下で高まる民族運動のなか、彼は芸術をその基盤と捉えました。

《リトアニアの墓地》では、十字架が抽象化された形で配され、民族的記憶と祈りの場が示されます。緑がかった空間と星の配置は、具体的な風景を超えた精神的な景観を形づくっています。


国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より 《リトアニアの墓地》1909年
《リトアニアの墓地》1909年


《祭壇》は本展のメインビジュアルです。階段状の構造を通して、人間精神の上昇が象徴されます。

塔や騎士などのモティーフが段階的に配置され、画面全体に宇宙的な広がりが与えられています。


国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より 《祭壇》1909年
《祭壇》1909年


エピローグではサンクトペテルベルク期の活動を紹介します。過度の制作と精神的緊張により体調を崩し、1911年、35歳で没しました。

《レックス(王)》は宇宙的秩序を主題とする代表作で、生涯最大の作品。中央の王は世界を統べる存在であると同時に、世界を内包する普遍的精神として描かれています。日本初公開となります。


国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より 《レックス(王)》1909年
《レックス(王)》1909年


短い生涯のなかで到達したその表現は、個人の内面と宇宙的な構想を結びつけるものとして、近代美術のなかでも特異な位置を占めています。

絵画と音楽を横断する表現を、体系的にたどることができる展覧会です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年3月27日 ]

作品はすべて、シカロコス・コンスタイティナス・チュルリョーニス M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵 M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.

国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より (左から)《おとぎ話Ⅰ》[三連画「おとぎ話」より]1907年 / 《おとぎ話Ⅱ》[三連画「おとぎ話」より]1907年 / 《おとぎ話Ⅲ》[三連画「おとぎ話」より]1907年
国立西洋美術館「チュルリョーニス展 内なる星図」会場より (左から)《ライガルダスⅠ[洋画「ライガルダス」より]》 / 《ライガルダスⅡ[洋画「ライガルダス」より]》 / 《ライガルダスⅢ[洋画「ライガルダス」より]》
会場
国立西洋美術館 企画展示室 B2F
会期
2026年3月28日(Sa)〜6月14日(Su)
開催中[あと75日]
開館時間
9:30~17:30(金・土曜日は~20:00)
※入館は閉館の30分前まで
休館日
月曜日、5月7日[木](ただし、3月30日[月]、5月4日[月・祝]は開館)
住所
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
電話 050-5541-8600(ハローダイヤル)
050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト https://2026ciurlionis.nmwa.go.jp/
料金
一般2,200円、大学生1,300円、高校生1,000円

※中学生以下、障害者手帳*をお持ちの方とその付添者1名は無料(入館の際に学生証等の年齢の確認できるもの、障害者手帳等をご提示ください)
*対象となる手帳:身体障害者手帳・ 療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳
※大学生及び高校生の方は、入館の際に学生証をご提示ください。
※国立美術館キャンパスメンバーズ加盟校の学生・教職員は、本展を学生1,100円、教職員2,000円でご覧いただけます。(学生証または教職員証をご提示のうえ、会期中ご来場当日に国立西洋美術館の券売窓口にてお求めください)
※観覧当日に限り本展の観覧券で同時開催の「北斎 冨嶽三十六景 井内コレクションより」、常設展もご覧いただけます。
展覧会詳細 チュルリョーニス展 内なる星座 詳細情報
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