水と食材を火にかけるという最小限の行為から生まれる「スープ」。その一杯に重なる素材や熱、身体感覚、器や空間との関係性に着目したユニークな企画展「スープはいのち」が21_21 DESIGN SIGHTにて始まりました。

21_21 DESIGN SIGHT
展覧会のディレクターを務めるのは、衣服や住まいといった身体の外側の環境と、食という内側の環境を「身体を包む行為」としてとらえてきたデザイナー・遠山夏未。スープにまつわる多彩な作品を展示した会場では、五感を通して新しい視点や気づきを見出し、衣食住の根源に触れることができます。
展示作品「はじまりのスープ」では、母体の鼓動に包まれ羊水の中にいるような感覚にさせるインスタレーションを展開。空間中央に束ねられているのは、蚕が繭を作る際に吐き出す緒糸(ちょし)です。緒糸をたどる器の塩水が時間とともに結晶化する様子は、生命のたどる道筋のよう。赤ちゃんが心地よいと感じる母体のやさしいリズムも感じさせます。

遠山夏未+岡 篤郎+NOTA&design(加藤駿介、加藤佳世子)「はじまりのスープ」会場風景
メイン会場の「最小限の衣食住」のエリアでは和紙に備前の土を練りこんでつくられた屋根が空間を大きく包み込みます。三内丸山遺跡の住居をイメージしたこの空間では、古代から火とともに営まれてきた「煮炊き」の原風景を体感できるでしょう。

企画展「スープはいのち」より「最小限の衣食住」会場風景
その奥には、日本最初の女性建築家・浜口ミホによる公団ステンレスの流し台が。高度経済成長期に合わせて1955年創設の公団住宅に設えられた台所のセットは、現在のシステムキッチンの原型といえます。労働の場であった台所を明るい南側に設置し、家族が集い食事をするやすらぎの空間へと位置付けました。

公団ステンレスの流し台
グラフィックから読みとれるスープの歴史もあります。11世紀の書物には、中央アジアの遊牧民の保存食として乾燥野菜とヨーグルトを混ぜて発酵させた「タルハナ」というスープが紹介されています。19世紀にはソーセージ状の粉末のスープ「エルプスヴルスト」が登場し、戦争などの極限状態での栄養補給となっていました。
技術革新とともに産業化していったスープは大量生産・標準化もされていきます。それに伴って広告表現の対象となったスープは、広く共有されるようにもなりました。

「旅とスープ ―小さなかたちとその移り変わり」会場風景
世界には数え切れないスープが存在します。「世界のスープ図鑑」では、各地の風土に根差した食材や日々の営みの中で培われた知恵が息づいた317種ものスープをまとめています。

佐藤政人「世界のスープ図鑑」会場風景
スープを入れるための受け皿にも着目し、くぼみから器への過程も追っています。焚き火の跡から地面の土が固くなることを発見し、こねた土を焼くことで煮炊き用の器が生まれました。その後、 熱を素早く伝え、薄くて強い金属を発明、さらに保温する陶の器も登場し、深い皿はスープを分け合うための共有の器に変化していきました。
スープを味わう際、器と人の間の架け橋となっているのがスプーンです。形や素材の異なる様々なスプーンを紹介した最後に登場するのは、クラッカー生地で作られた山フーズ(小桧山聡子)による「食べられる匙」です。

高橋孝治「くぼみから器へ」会場風景

高橋孝治「くぼみから器へ」会場風景
会場内では、料理家たちによるレシピカードを集めることができます。入口で渡される地図が記された封筒を手に作品を巡り、各展示に対応するカードを収めていく趣向です。 持ち帰ったレシピでスープを作り、その味を楽しむことで、鑑賞体験を完結させてみてはいかがでしょうか。

レシピカード
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2026年3月27日 ]