日本のファッション界を代表するデザイナーとして活動を続ける一方、近年は絵画や墨絵など多様な表現にも取り組んでいるコシノヒロコ(1937- )。その半世紀を超える創作活動を「いま」の視点から捉え直す展覧会が、東京都現代美術館で開催中です。
会場では、ファッション作品に加え、舞台美術、映像、絵画、インスタレーションなど多彩な表現を紹介。同時代のクリエイターとの関係性や、現代美術との接点を通して、コシノヒロコという表現者の創作の広がりを体感できます。

開幕前日の内覧会では、ライブドローイングを披露しました。
チャプター 1では、幼少期の体験と創作の原点に焦点が当てられます。歌舞伎や文楽、浄瑠璃といった舞台芸術から受けた鮮烈な印象は、コシノの想像力を支える重要な源泉となりました。
同時に、「絵を描くこと」も創作の核として位置づけられています。墨絵やペインティング、舞台幕など多様な作品が並び、鏡面演出によって増幅された空間のなかで、コシノの創造世界が立体的に立ち上がります。

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ー新説/真説 コシノヒロコー」展示風景、東京都現代美術館、2026年 チャプター 1「原体験と想像力 ─ コシノヒロコの世界」

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ー新説/真説 コシノヒロコー」展示風景、東京都現代美術館、2026年 第1章「原体験と想像力 ─ コシノヒロコの世界」
チャプター 2では、日本文化と西洋モードの関係性を読み解ます。コシノは、歌舞伎など日本の伝統文化に根差した感性を、世界へ向けたファッション表現へと展開してきました。
戦後日本の文化的アイデンティティの模索や、具体美術協会との関係にも触れながら、コシノの創作を多角的に紹介。さらに、日常着やライフスタイルへと広がっていったデザイン実践からは、美を生活へ届けようとした姿勢も見えてきます。

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ー新説/真説 コシノヒロコー」展示風景、東京都現代美術館、2026年 チャプター 2「交錯する美学 ─ コシノヒロコと日本的モダニティ」
チャプター 3では、建築家、音楽家、空間デザイナーなど、多分野のクリエイターとの協働が紹介されます。コシノの活動は次第にファッションの枠を越え、空間や音楽を巻き込んだ総合的な表現へと広がっていきました。
ここでは、現代アーティストのマティルド・ドゥニーズとの新作コラボレーションも展示。過去のコレクションに用いられた布地や衣服が再構成され、時間や記憶を横断する新たな立体作品として提示されています。

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ー新説/真説 コシノヒロコー」展示風景、東京都現代美術館、2026年 チャプター 3「コラボレーション ─ 群像」
チャプター 4では、コシノの創作を支える素材への探究に迫ります。織り、染め、刺繍、プリントなど多様な技法を駆使し、ときには素材そのものを開発しながら、独自のテキスタイル表現を築いてきました。
銀座や心斎橋で培われたクチュリエールとしての経験を背景に、素材と身体、色彩と構造を大胆に結びつけるコレクションが展開されます。壁面に投影されるスケッチは、コシノが筆で描いてきたコレクションの構想やイメージの軌跡でもあり、素材やかたちが生まれる前の発想の源にも触れることができます。
本章では実際に洋服へ触れることもできるのも特徴的です。コシノの創作を視覚だけでなく、身体感覚として体験できます。

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ー新説/真説 コシノヒロコー」展示風景、東京都現代美術館、2026年 きチャプター 4「テキスタイルへの情熱 ─ 創作の核心」

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ー新説/真説 コシノヒロコー」展示風景、東京都現代美術館、2026年 チャプター 4「テキスタイルへの情熱 ─ 創作の核心」
チャプター 5では、コシノの原体験と未来への実践が結びつけられます。幼少期に祖父や母から受け取った経験が、現在も創作を支える原動力として息づいています。
近年取り組む「ネクスト・クリエイション・プログラム こどもファッションプロジェクト」では、子どもたちが自由な発想で服や映像作品を制作。未来の表現者を育てる試みであると同時に、自身の創造性を育んでくれた存在への“恩返し”として位置づけられています。

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ー新説/真説 コシノヒロコー」展示風景、東京都現代美術館、2026年 チャプター 5「絵描き少女と子どもたち ─ 未来への恩返し」
ファッションデザイナーとして広く知られてきたコシノヒロコを、ひとりの総合的な表現者として捉え直す展覧会。衣服、絵画、空間、舞台、そして子どもたちとの創作まで、多層的に広がる活動の全体像から、現在進行形の創造力を体感できます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年5月28日 ]