近代京都画壇を代表する日本画家、山口華楊(1899-1984)。動物をはじめ自然を鋭く観察した写実性と、静かな詩情をあわせ持つ独自の表現を確立し、多くの後進にも影響を与えました。
SOMPO美術館で、同館が収蔵する3作品作品をはじめ、初期から晩年までの画業を紹介する展覧会が開催。東京では実に27年ぶりとなる、大規模な回顧展です。

SOMPO美術館
まずは、画家を志した少年時代から若き日の歩みが紹介されています。友禅染職人の家に生まれた華楊は、西村五雲に師事し、写生を何よりも重んじる姿勢を学びました。さらに竹内栖鳳や京都市立絵画専門学校で研鑽を積み、確かな描写力を身につけていきます。
実物を徹底して観察する制作姿勢は、生涯変わることがありませんでした。納得できる題材に出会うまで写生を重ねた若き日の試行錯誤からも、後年の作品につながる探究心がうかがえます。

(左から)山口華楊《葉桜》1921(大正10)年 SOMPO美術館 / 山口華楊《葉桜(大下絵)》1921(大正10)年頃 京都府(京都文化博物館管理)

(左から)山口華楊《鹿》1927(昭和2)年 京都市美術館 / 山口華楊《耕牛》1934(昭和9)年 東京国立近代美術館
師・西村五雲の没後、華楊は晨鳥社(しんちょうしゃ)を研究団体として再興し、自らの表現を模索していきます。師の画風を受け継ぎながらも、独自の世界を切り開いていく時代です。
五雲の動物画は厳格さがある一方、華楊の動物たちには穏やかなまなざしと慈しみが感じられます。写実を基盤としながらも、生命への温かな眼差しが作品に宿っています。

(左から)山口華楊《草》1941(昭和16)年 京都市美術館 / 山口華楊《洋犬図》1937(昭和12)年 東京国立近代美術館

(左から)山口華楊《神鹿》1940(昭和15)年 京都国立近代美術館 / 山口華楊《制空》1944年(昭和19)年 名都美術館
動物の作品で知られる華楊ですが本展では、植物表現にも焦点を当てています。華楊自身は生涯、自らを「花鳥画家」と認識しており、植物もまた重要な画題でした。
若き日から晩年の作品まで、植物は静かな存在でありながら力強い生命感を放ちます。繊細な描写の積み重ねによって、今にも動き出しそうな躍動感が生み出されています。

(左から)山口華楊《鶏頭の庭》1977(昭和52)年 京都市美術館 / 山口華楊《青柿》1978(昭和53)年 北澤美術館

(左から)山口華楊《新秋》制作年不詳 福田美術館 / 山口華楊《玄花》1979(昭和54)年 髙島屋史料館
戦後も日展や晨鳥社展を中心に制作を続けた華楊は、《仔馬》で日本芸術院賞を受賞し、日本芸術院会員、文化勲章受章へと至ります。さらにパリ・チェルヌスキ美術館で個展が開かれるなど、その評価は海外にも広がりました。
約70年に及ぶ画業の集大成となる《幻化》には、徹底した写生から生まれた写実と、幻想的な世界観が見事に融合しています。現実を見つめ続けた先にたどり着いた、華楊芸術の到達点といえるでしょう。

(左から)山口華楊《白い馬》1952(昭和27)年 日本芸術院 / 山口華楊《仔馬》1955(昭和30)年 日本芸術院

山口華楊《幻化》1979(昭和54)年 SOMPO美術館
植物や風景を含めた幅広い表現を通して見ると、その魅力はさらに奥深く感じられます。
ひとりの日本画家に焦点を当てた展覧会がSOMPO美術館で開催されるのは、50年の歴史でこれがはじめて。徹底した写生の先に築かれた詩情豊かな日本画の世界を、お楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年7月10日 ]