レポート
神戸の六甲山を舞台に「神戸六甲ミーツ・アート2026 beyond」(以下、RMA)が始まりました。RMAは2010年から始まった現代アートの芸術祭で、今年で17回目の開催となります。会場は六甲山上に分散しており、会期は11月29日までです。公共交通機関を利用する方は、六甲ケーブルで「六甲山上駅」を目指し、そこから路線バス「六甲山上バス」、および徒歩で会場を巡ることになります。レンタサイクルという選択もありますが、上り坂、下り坂が多いので、利便性について賛否が分かれそうです。
関西から出かける方は自家用車が便利でしょう。また、9月19日以降の土曜、日曜、祝日は、ROKKO森の音ミュージアム、六甲高山植物園を舞台に「ひかりの森~夜の芸術散歩~」(17:00-20:00)が開催され、夜間限定の光のアート作品を鑑賞できます。

六甲ケーブル下駅の様子
訪問日は、曇り、時々雨のお天気でしたが、六甲ケーブルに乗り「六甲山上駅」に降り立つと、あきらかに涼しいと感じました。都会から山上へ、避暑と芸術鑑賞のために、あるいは時期をずらせば、紅葉と芸術鑑賞を楽しめるでしょう。それぞれの好みの季節を選び、「六甲山で芸術散歩」は、いかがですか。それでは、「六甲山上駅」から反時計回りに、各展示エリアの主な作品を紹介しましょう。
六甲ケーブル、天覧台
ニシハラ☆ノリオ×北園組 ≪とびだせ!!オレの部屋≫。優しそうな表情でケーブルカーに案内してくれる案内嬢は、実は「パチモン」の案内嬢です。今回は、ニシハラ☆ノリオ×北園組のメンバーのひとりが、ケーブルカーの案内嬢として、RMAの鑑賞ツアーを先導してくれました。駅の構内には、通学路の表示の付いた電柱のように、すぐに作品とわかるものもあれば、本当は駅の備品なのに、もしかすると作品かなと思わせるトラップもあります。その様子は、現実の世界に作品の世界が入り込む不思議な世界観です。それでは発車時間になったので、案内嬢と一緒にケーブルカーに乗り込み、山上駅に向かいましょう。

ニシハラ☆ノリオ×北園組 ≪とびだせ!!オレの部屋≫(部分)
宮嵜浩 ≪CELEBRATION / 借景のヴァニタス≫。山上駅すぐの天覧台には、たくさんの白いテーブルセットが並んでいます。テーブルの上に並んだガラス皿を見ると、平たくて黒っぽい石、錆びて赤くなった金具、雑草などが盛り付けられています。これらは、六甲山の中で拾われた廃品だそうです。また、本作は体験型の作品であり、白い椅子には腰掛けることができます。ゆっくりと腰かけて、これまでに六甲山に流れた時間や物質の循環を想像してみましょう。晴れていれば神戸市街の眺望を楽しめる場所ですが、今回は白い霧が立ち込めており、白い壁に囲われた大きな部屋の中にいるようでした。

宮嵜浩 ≪CELEBRATION / 借景のヴァニタス≫(部分)
風の教会エリア
正元嶺至 ≪Übermensch≫。3体の立像が、小石の散らばる荒れ地に置かれています。女性になぞらえたと思われる立像は等身大よりも少し大型で、SF映画に登場しそうな近未来的な姿をしています。周囲を見回すと、左側の白いロープの下側は急な崖になっています。全身が真っ黒で、崖っぷちに立つ姿は、とてもスリリングです。ところで、本作は金属で作られています。おそらく防錆加工をしているでしょうが、風雨にさらされ、いずれ錆色が出てくるでしょう。そうすると、未開の惑星に残され、エネルギー切れで停止したアンドロイドの姿を映したSF映画のシーンとオーバーラップする予感がします。

正元嶺至 ≪Übermensch≫
棚田康司 ≪届かない橋を渡る≫(部分)。黒い十字架を背景に、白いワンピースの少女が手に赤い花を持ち、途中で途切れ、舞台のようになった橋の上に立っています。実は、少女の視線の先には、もうひとりの人物がいます。建築家の安藤忠雄による「教会三部作」のひとつ、「風の教会」を会場にした本作は、とても複雑で詩的な関係性を鑑賞者に提示します。十字架の黒とワンピースの白、赤い花と窓から見える木々の緑。目には見えませんが、黒から白へ連続するグラデーション、赤から緑へ連続するグラデーションの中に、無限の関係性や可能性を感じます。ただ、視線の合わないふたつの像を見ていると、求めても届かない無情観を感じます。

棚田康司 ≪届かない橋を渡る≫(部分)
野田満 ≪Monster Tree≫。本作は、「神戸六甲ミーツ・アート2026 beyond 公募大賞」で、準グランプリを獲得しました。人の手で土を積み上げ、直径12mほどの巨大な木の切り株の形にした作品は、圧倒的な質量感と存在感に満ちています。作品の奥に見える背の高い木と見比べ、高さが100mを超える大木を空想するか、あるいは、横幅が50mを超えるような枝葉の豊かな木を空想してみましょう。野田によれば、本作は具体的な樹種を想定していないので、針葉樹のように背の高い木でも、広葉樹のように枝を広げる木でも、鑑賞者の自由な想像に任されているそうです。

野田満 ≪Monster Tree≫
仲順れい ≪諦 -あきらめ-≫。最初は、手前の白っぽい絵柄が気になりますが、目が慣れると、背景の壁に映る灰色の影の存在に気がつきます。白い部分では、半裸の人物が表現されていますが、背景の影を見ると裾の長いドレスを着ているように見えます。本作は、切り絵とその影を組み合わせた印象的なインスタレーション作品です。別の展示室では、天井から吊り下げられた多くの切り絵が風で動き、スポットライトに照らされ、投影される影が生きているように見えます。少し不気味に感じるかもしれませんが、思わず見入ってしまう、怖いもの見たさを刺激する作品です。

仲順れい ≪諦 -あきらめ-≫(部分)
六甲ガーデンテラスエリア、自然体感展望台 六甲枝垂れ
四方謙一 ≪景色が削り出される≫。銀色の大きなネジのようなものが、「見晴らしのテラス」から谷に向けて突き出ています。多くの切れ込みがあり、複雑な多面鏡になったネジの内側をのぞき込むと谷の景色、後ろの景色、自分の姿が入り混じった不思議な景色が広がります。テラスの後ろ側には「見晴らしの塔」があり、塔の上からネジを見下ろすことができます。四方は、六甲山の景色が断片化されて多面鏡に映る様子を「削り出す」と表現したようですが、本作を塔の上から眺めると、まるで中世のお城に備えられた大砲のように見えます。もしかすると、本作は、鑑賞者の感性を谷に向かって打ち出す現代の大砲なのでしょう。

四方謙一 ≪景色が削り出される≫(部分)
木村崇人 ≪風と渡り鳥≫。本作は、網目状の構造に覆われた「自然体感展望台 六甲枝垂れ」の麓に並んでいます。風向きにより頭の向きを変える風見鶏をモチーフにした本作は、六甲山の風を受け、ゆるやかに回転します。しばらく眺めていると、隣同士の作品の配色、柄の位置と大きさ、輪郭線の長さと幅が揃っていることに気がつきました。どうやら、並んでいる風見鶏は、すべて一枚の原板から作成されたコピー、生物であればクローンに該当するようです。そうとわかると、風音に混じり、あちこちから同じような鳴き声が聞こえてきそうです。

木村崇人 ≪風と渡り鳥≫(部分)
ミュージアムエリア
ROKKO森の音ミュージアム、六甲高山植物園を含む本エリアは、RMAの中心的な展示エリアです。今年のRMAのハンドアウトの表紙に掲載された奈良美智の≪Peace Head≫、草間彌生の≪南瓜≫は、このエリアに展示されます。特に、草間彌生の≪南瓜≫は、特別寄託作品として今年の3月から展示が始まり、来場者の注目度が高い作品です。
また、「ひかりの森~夜の芸術散歩~」(9月19日以降の土曜、日曜、祝日、17:00-20:00)も、このエリアで開催されます。

「神戸六甲ミーツ・アート2026 beyond」のハンドアウトなど
義村環 ≪green couch≫。本作は、六甲高山植物園内の休憩所に展示され、実に様々な素材が使われています。また、植物をモチーフにした人工的な庭を植物園の中に設けるという入れ子構造になっています。このようなアプローチには義村のユーモアを感じます。また、本作は、平面作品と立体作品の両方の特徴を持ち、ベンチとして座ることのできる体験型の作品でもあります。とはいえ、座る時は優しく、行儀よく座りましょう。それから、中央付近の立体部分に座ることは遠慮しましょう。
ところで、西暦2000年生まれの義村は、今年のRMAの参加作家の最年少です。今後、各地の展覧会や芸術祭で見かける機会が増えそうな予感がします。

義村環 ≪green couch≫(部分)
松井昭太 ≪石のさいだん≫。中央部では、土の土台の上に置かれた透明な台の上に大きな岩が置かれています。四方の透明な柱の中には、いまにも落ちそうな大きな岩が封じ込められています。これらの岩には、六甲山で採取された御影石が使われています。巨石を磐座として信仰する文化を持つ六甲山にちなんだ作品のようです。中央の巨石が、神の降臨する重要な場所だとしたら、四方の柱の中の岩と水滴は、降臨する神の暗示でしょうか。あるいは、重力に逆らい、天空に登ろうとする人間の欲望の表現でしょうか。

松井昭太 ≪石のさいだん≫
兵庫県立六甲山ビジターセンター、バンノ山荘
古巻和芳 ≪道行き/skywalker No.31≫。ワイヤーの上で絶妙にバランスをとる人物をモチーフにした木彫の作品です。展示場所は、背の高い木々に囲まれ、昼間でも薄暗く、湿気の多い場所です。そのような周辺の景色を借景として取り込みながら、本作はいくつもの可能性のある未来とひとつに定まった過去、そして未来を選択している現在を暗示しています。空中に貼られたワイヤーと次の展示場所に続く道は、この先で交差します。何らかの未来を選択した瞬間を意識すると、とても神妙な気持ちになる作品です。

古巻和芳 ≪道行き/skywalker No.31≫(部分)
おわりに
RMAでは、子どもたちが現代アートに親しめるワークショップも多数企画されます。そのワークショップに参加した子どもたちの中には、将来のRMA参加作家が隠れているかもしれません。RMAは、未来の文化芸術を担う人々の揺籠でもあるようです。それでは、RMAを目いっぱい楽しみましょう。
RMAを楽しむためには、相当な距離の山道を歩きます。最後に、今年のおすすめランチも紹介します。 「神戸牛入りハンバーグのとろけるチーズグラタン」 ボリューム感のあるハンバーグと冷製スープがおすすめです。食べ終わった食器は、セルフで返却をお願いします。

おすすめランチ 「神戸牛入りハンバーグのとろけるチーズグラタン」(森のCafé)
「祝!50周年ラムランチ」。 ラムのお肉は柔らかくて、臭みが少ないです。隣でお肉を食べていた方のお話では、札幌で食べたジンギスカンよりも、こちらのお肉の方がおいしいそうです。

おすすめランチ 「祝!50周年ラムランチ」(六甲山ジンギスカンパレス)
「三田ポークと兵庫県地野菜のロースト~朝倉山椒と柑橘とやまみつのソース~」。 厚みのあるポークは、肉汁も十分で食べ応えがあります。カフェのテラス席に座ると、お天気が良ければ、素敵な眺望も楽しめます。(注:左上のパフェは別メニュー)

おすすめランチ 「三田ポークと兵庫県地野菜のロースト~朝倉山椒と柑橘とやまみつのソース~」(グラニットカフェ)
今年のRMAでも、たくさんの新しいオリジナルグッズが制作されました。ランチの後の休憩時間に、今年のお気に入りを見つけてみましょう。

ショップの店頭の様子
なお、掲載した写真は許可を得て撮影しています。
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2026年8月27、28日 ]

作品を見る時は、先入観を避けるため、解説などは後から読むようにしています。
折々に、東海エリアの展覧会をレポートしますので、出かけていただく契機になれば幸いです。
名古屋市美術館協力会会員、国際芸術祭あいちボランティア。