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レポート
水辺を見つめ続けた画家 ─ SOMPO美術館「アルベール・マルケ展」(レポート)
SOMPO美術館 | 東京都
国内では35年ぶりとなる本格的なマルケ展。初期から晩年までの変化を紹介
セーヌ、港、海辺の町…生涯で繰り返し描いた重要なモティーフは「水辺」
マティスらとともにフォーヴィスムに関わってからマルケならではの色彩へ

セーヌ河岸、港、海辺の町――。水辺の風景を愛し、生涯にわたって描き続けたフランスの画家、アルベール・マルケ(1875–1947)。

マティスとともにフォーヴィスムの誕生に関わりながら、やがて強烈な原色から離れ、「マルケのグリ」と呼ばれる灰色をはじめとする抑制された色彩へ。高所から見下ろす構図と簡潔な線によって、都市と水辺の空気を捉えました。

日本では35年ぶりとなる本格的な回顧展が、SOMPO美術館で開催。初期から晩年まで約90点を通して、長く「マティスの友人」として語られてきたマルケ自身の表現に光を当てます。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場入口
SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場入口


第1章「形成期 フォーヴィスムの渦中で」では、1898年から1906年頃までのマルケを紹介します。ボルドーに生まれ、パリのエコール・デ・ボザールで学んだマルケは、アンリ・マティスらとともにギュスターヴ・モローの教室で研鑽を積みました。

鮮烈な色彩を用いる一方、マルケは視覚的な観察に根ざした姿勢を保ち、線と色のトーンによる画面構成を探究。1906年にデュフィとノルマンディーを訪れた経験から水辺への関心を深め、その後のセーヌ河岸や港を描く作品へとつながっていきます。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より 第1章「形成期 フォーヴィスムの渦中で」
第1章「形成期 フォーヴィスムの渦中で」


《裸婦、通称フォーヴの裸婦》は、モローの死後、友人マンガンのアトリエで、マティスと競うように制作した作品です。

円形の台座に立つ裸婦を黄味を帯びた色彩で表し、背景には緑、青、赤、紫など強い色面を配置。筆触分割と鮮烈な色彩による、新しい絵画表現への探究がうかがえます。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より アルベール・マルケ《裸婦、通称フォーヴの裸婦》1898年 ボルドー美術館
アルベール・マルケ《裸婦、通称フォーヴの裸婦》1898年 ボルドー美術館


第2章「水辺の変奏 旅する画家」では、生涯にわたり各地を旅したマルケの風景画を紹介します。その制作地のほとんどは水辺でした。

パリのセーヌ河をはじめ、ノルマンディーや南仏、ドイツ、イタリア、オランダなどの港町へ。土地ごとに色彩や構図を変化させながらも、マルケは雄大な自然そのものより、水辺を軸とした風景の確かな構造を捉え続けました。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より 第2章「水辺の変奏 旅する画家」
第2章「水辺の変奏 旅する画家」


フランス北部の都市ルーアンでも、マルケはセーヌ河を描きました。1912年春に訪れた際は悪天候に悩まされ、一度制作を中断しますが、秋に再訪しています。

《ルーアン、ボワエルデュー橋とパリ河岸、快晴》は、この再訪時に描いた連作のひとつ。橋から距離をとった視点で水面を大きく捉え、対岸まで広がる開放的な風景を描いています。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より アルベール・マルケ《ルーアン、ボワエルデュー橋とパリ河岸、快晴》1912年 パリ、個人蔵(協力:パリ、ギャルリー・ド・ラ・プレジダンス)
アルベール・マルケ《ルーアン、ボワエルデュー橋とパリ河岸、快晴》1912年 パリ、個人蔵(協力:パリ、ギャルリー・ド・ラ・プレジダンス)


1908年と翌年、マルケはナポリに滞在。《ナポリ、帆船》では画面の大部分を水面とし、最前景の釣り舟とその背後の船の大小によって奥行きを表しています。

視線の先にあるのはヴェスヴィオ山のシルエット。形や色の単純化、近景と遠景の大胆な対比などから日本美術との共通点も指摘され、ヴェスヴィオ山は富士山にもなぞらえられています。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より アルベール・マルケ《ナポリ、帆船》1909年 ボルドー美術館
アルベール・マルケ《ナポリ、帆船》1909年 ボルドー美術館


第3章は「アルジェに恋して」。北アフリカの港町アルジェをマルケが初めて訪れたのは1920年です。最初に街を案内したマルセルは、後にマルケ夫人となりました。

以後、冬をアルジェで過ごすことが恒例となり、海岸や港だけでなく、道や丘など日常の風景も描くようになります。第二次世界大戦中は5年間にわたりアルジェを本拠とし、戦時下の港に停泊する軍艦も作品に描かれました。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より 第3章「アルジェに恋して」
第3章「アルジェに恋して」


《バルコニー、または 縞模様の日よけ》では、開いた窓の前にイーゼルが置かれ、その向こうに明るいアルジェ湾が広がります。

強い陽射しを遮る赤と黄色の縞模様の日よけと、静けさに包まれた室内の対比も印象的です。1946年1月の訪問がマルケにとって最後のアルジェ滞在となりました。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より アルベール・マルケ《バルコニー、または縞模様の日よけ》1945年頃 パリ、プロシュ・コレクション(協力:パリ、ギャルリー・ド・ラ・プレジダンス)
アルベール・マルケ《バルコニー、または縞模様の日よけ》1945年頃 パリ、プロシュ・コレクション(協力:パリ、ギャルリー・ド・ラ・プレジダンス)


第4章「晩年 セーヌ、ポン=ヌフ連作」では、マルケが繰り返し描いたパリの風景に焦点を当てます。1931年、マルケはポン=ヌフのたもとにあるアパルトマンへ転居し、ここを終の棲家としました。

自宅から見える風景を、霧や雪、夜など異なる条件のもとで描いた〈ポン=ヌフ〉の連作。限られた色彩と高所からの視点によって、セーヌの空気とともに、橋を行き交う人や車が生み出す都市のリズムも捉えています。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より 第4章「晩年 セーヌ、ポン=ヌフ連作」
第4章「晩年 セーヌ、ポン=ヌフ連作」


1946~47年の冬、病に倒れたマルケは手術を受けました。自宅に戻ると雪に覆われたパリの風景に魅了され、術後間もないにもかかわらず再び絵筆をとります。

《雪と緑色の空、パリ(ポン=ヌフ)》は、最後に描いたポン=ヌフの連作8点のうちの1点と考えられる作品。茶色、緑色、灰色、白色という限られた色彩で、冬のセーヌの静かな表情を捉えています。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より アルベール・マルケ《雪と緑色の空、パリ(ポン=ヌフ)》[冬のパリ(ポン・ヌフ)]1947年2月 上原美術館
アルベール・マルケ《雪と緑色の空、パリ(ポン=ヌフ)》[冬のパリ(ポン・ヌフ)]1947年2月 上原美術館


第5章「素描、挿絵本」では、油彩とは異なるマルケの魅力を紹介します。マルケにとって素描は単なる習作や下絵ではなく、独立した表現でもありました。

インクや墨による太く素早い線で、街を行き交う人々の姿や風景を最小限の描線で表現。その筆づかいは日本や中国の書にも例えられ、マティスは「北斎を見るとマルケのことを考えるし、マルケを見れば北斎のことを考える」と語っています。


SOMPO美術館「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」会場より 第5章「素描、挿絵本」
第5章「素描、挿絵本」


フォーヴィスムの鮮烈な色彩から、灰色を基調とした静かな風景へ。マルケが変わらず見つめ続けたのは、水辺と、そこに息づく人々の暮らしでした。

パリ、ナポリ、アルジェなど各地の水辺を巡りながら、簡潔な線と色彩へと研ぎ澄まされていく画家の歩みをたどる展覧会です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年9月24日 ]

アルベール・マルケ《ノートル=ダム大聖堂、陽光》1904年 ポー美術館、国立造形芸術センターより寄託
アルベール・マルケ《ルヴェールの肖像、黒衣の男》1904年 フランス、個人蔵(協力:パリ、ギャルリー・ド・ラ・プレジダンス)
会場
SOMPO美術館
会期
2026年9月22日(Tu)〜12月13日(Su)
開催中[あと77日]
開館時間
10:00 - 18:00(金曜日は-20:00)※最終入場は閉館30分前まで
休館日
月曜日(ただし10月12日、11月23日は開館)、9月24日、10月13日、11月24日
住所
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
電話 050-5541-8600(ハローダイヤル)
050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト https://www.sompo-museum.org/
料金
一般(26歳以上) 2,000円
25歳以下 1,200円
小中高校生 無料
障がい者手帳をお持ちの方 無料
展覧会詳細 開館50周年記念 アルベール・マルケ展 詳細情報
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