厚く塗り重ねた絵具と、鮮やかな色彩。人々の苦悩や祈りを描き続けたフランスの画家、ジョルジュ・ルオー(1871–1958)の展覧会が京都で開かれています。
アサヒグループ大山崎山荘美術館の「開館30周年記念 ジョルジュ・ルオー ―いつくしむまなざし、祈りの筆あと」は、同館で初めてとなるルオーの個展。同館所蔵の4点とパナソニック汐留美術館の所蔵作品約35点を中心に、その画業を辿ります。

アサヒグループ大山崎山荘美術館
ルオーは1871年、パリに生まれました。14歳からステンドグラス職人のもとで修業し、その後、国立美術学校で象徴主義の画家ギュスターヴ・モローに学びました。
若い頃には伝統的な歴史画や宗教画を描き、ローマ大賞にも挑戦。しかし、1902年頃から画題や技法が変化し、娼婦や道化師、裁判官など、従来の西洋絵画では主役になりにくかった人々を描くようになります。

アサヒグループ大山崎山荘美術館「開館30周年記念 ジョルジュ・ルオー ―いつくしむまなざし、祈りの筆あと」会場入口
師モローの死後、精神的な苦悩を経験したルオーを支えたのは、カトリックへの信仰でした。社会の片隅に生きる人々の姿に、人間の弱さや悲しみを見いだし、暗い色調と激しい筆致で描き出しました。
1910年には初めての個展を開催。その数年後には画商アンブロワーズ・ヴォラールと専属契約を結び、銅版画集《ミセレーレ》や《受難》など、キリストの苦難を主題とした作品にも取り組みました。

ジョルジュ・ルオー《貴族的なピエロ》1941–1942年 アサヒグループ大山崎山荘美術館
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2026 G4392
ルオーの創作を特徴づけるのが、絵具を幾重にも塗り重ねた厚みのある画面と、ステンドグラスを思わせる太い輪郭線です。制作には長い時間をかけ、作品を繰り返し描き直すこともありました。
1939年にヴォラールが事故死すると、遺族との間で未完成作品の所有をめぐる裁判が起こります。勝訴したルオーは、返還された作品のうち、300点余りを自ら焼却したとされます。作品の完成を自ら決めようとした、画家の強い意志がうかがえます。

アサヒグループ大山崎山荘美術館「開館30周年記念 ジョルジュ・ルオー ―いつくしむまなざし、祈りの筆あと」会場
《避難する人たち(エクソドゥス)》は、旧約聖書の「出エジプト記」に着想を得た作品です。エジプトで奴隷となっていたイスラエルの民が、モーセに率いられて約束の地を目指す物語を背景としています。
ルオーは1900年代半ばからこの主題に取り組み、住む場所を追われ、疲れ果てながら歩く人々を描きました。聖書の物語を通して、苦難に直面する人間の姿を見つめています。

ジョルジュ・ルオー《避難する人たち(エクソドゥス)》1948年 パナソニック汐留美術館
晩年になると、ルオーの絵画は明るさを増し、人物の表情も穏やかになっていきます。家族の和やかなひとときや、宗教的な風景も数多く描かれました。
厳しい現実を見つめた初期の人物像から、慈愛に満ちた晩年の作品へ。表現は変化しても、人間の弱さと強さにまなざしを向け続けた姿勢は一貫しています。画面に重ねられた色彩には、祈りのような思いが込められているのでしょう。

アサヒグループ大山崎山荘美術館「開館30周年記念 ジョルジュ・ルオー ―いつくしむまなざし、祈りの筆あと」会場 (右写真)ジョルジュ・ルオー《聖書の風景》1956年頃 アサヒグループ大山崎山荘美術館
同館の「地中の宝石箱」(地中館)では、「開館30周年記念 没後100年 クロード・モネ展」も同時開催されています。
印象派を代表するクロード・モネ(1840–1926)の没後100年を記念した展覧会で、同館が所蔵するモネ作品全8点を10年ぶりに公開(会期中一部展示替えあり)。9月19日からの第2期には6点が並び、自然の光や色彩を追求したモネの世界を楽しめます。

アサヒグループ大山崎山荘美術館「開館30周年記念 没後100年 クロード・モネ展」会場

アサヒグループ大山崎山荘美術館「開館30周年記念 没後100年 クロード・モネ展」会場
館内の喫茶室では、開館30周年記念カフェ企画「あのスイーツをもう一度」も開催中。リーガロイヤルホテル京都の協力により、過去の企画展で好評だったスイーツが再登場しています。
ルオー展の会期中には、若き日のルオーが修業した工房のステンドグラスをイメージした「ルオーのステンドグラス」と、モネが残したレシピをアレンジした「ガトー・ド・マロン」が登場。鑑賞後のひとときにも、二人の画家の世界が広がります。

(左)ルオーのステンドグラス / (右)ガトー・ド・マロン
人間の苦悩や祈りを見つめたルオーと、移ろう光や色彩を追い求めたモネ。同じフランスに生きながら、それぞれ異なる表現を築いた二人の画家を、一度に鑑賞できる機会です。
開館30周年を迎えたアサヒグループ大山崎山荘美術館。歴史ある建築や緑豊かな庭園、カフェでのひとときも含めて、ゆっくりと楽しみたい展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年9月19日 ]