英国を代表する風景画家、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775–1851)。「光の画家」として知られるターナーは、自然の美しさだけでなく、人間を圧倒するような力も描き続けました。
「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」では、ターナーの作品80点超を紹介。自然への畏怖を表す「崇高」をキーワードに、その表現をたどるとともに、現代美術とのつながりを探ります。

「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年
序章「暗い部屋」では、ターナーが繰り返し描いた月光の表現に注目します。自身の画廊を訪れた客を、しばらく暗い部屋で待たせたという逸話を手がかりに、光と闇への関心を紹介します。
日食を記録したスケッチブックとともに、現代作家ケイティ・パターソンの作品も展示。過去に記録された日食の画像を用い、無数の光が舞うインスタレーションが、ターナーの自然科学への関心と響き合います。

「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年
第1章「はじまりの歩み、英国の風景から」では、画業初期のターナーが描いた英国の風景を紹介します。山岳や湖、丘陵などを訪れ、自然の形や色彩、光と大気の変化を丹念に観察しました。
自然のなかを歩き、風景と向き合ったターナー。歩き、印をつけ、記録することを芸術実践とした現代作家リチャード・ロングの作品も並び、二人が訪れたダートムーアでの足跡が、時代を超えて重なります。

「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年
第2章「山々の内部へ」では、アルプスなどの雄大な自然を描いた作品が登場します。1802年、初めて英国の外へ旅したターナーは、険しい山々や氷河の圧倒的な力を作品に表しました。
会場には、オラファー・エリアソンが同じ氷河を1999年と2019年に撮影した写真シリーズも展示。ターナーが捉えた自然の姿と、気候変動が進む現代の風景を対比させます。

「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年
第3章「歴史的崇高」では、神話や歴史を題材とした作品を取り上げます。ターナーの時代、歴史画は最も権威ある絵画のジャンルとされ、ターナー自身も繰り返し取り組みました。
ティツィアーノやクロード・ロランら過去の巨匠から学びながら、独自の表現を追究したターナー。古典的な主題に大胆な手法を取り入れ、見る人の感覚に強く訴える作品を生み出しました。

「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年
第4章「崇高の都市、ヴェネツィア」では、ターナーが生涯に3度訪れた水の都を取り上げます。1819年、1833年、1840年の滞在を通して、運河や建築物、広大な空を描きました。
最後の滞在では、ホテルの一室をアトリエ代わりに制作。水面に映る光や大気の変化を捉えた水彩画と油彩画から、刻々と表情を変える都市の魅力が伝わります。

「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年
第5章「荒れた海」では、ターナーが生涯にわたり描き続けた海の表現に注目します。荒波や難破船、捕鯨船などを通して、人間の営みと自然の巨大な力がぶつかり合う場として海を捉えました。
会場には、奴隷貿易の歴史や現代の資本主義に目を向けるオトリス・グループの映像作品も登場。ターナーの海景画と現代美術を通して、海に刻まれた歴史や社会の問題を考えます。

「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年
第6章「黙想、海と空を見つめつつ」では、荒々しい海とは異なる、静かな自然の表情に目を向けます。ターナーは海面の光や波頭、薄くたなびく雲など、移ろう風景を丹念に観察しました。
油彩画に加え、細部を捉えた数多くのスケッチも紹介。絶えず変化する海と空を見つめた、ターナーの繊細なまなざしが浮かび上がります。

「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年
第7章「根源的崇高――後期ターナーという問題」では、晩年の大胆な表現を取り上げます。健康の悪化や周囲からの批判にもかかわらず、ターナーは制作を続け、光や大気そのものを描くような作品を生み出しました。
会場には、マーク・ロスコやバーネット・ニューマンら抽象表現主義の画家たちの作品も登場。光と色彩を追究したターナーの絵画が、時代を超えて現代美術と響き合います。

「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年
山々の雄大さ、荒れ狂う海、移ろう光と大気。ターナーが追究した自然の「崇高」は、時代を超えて現代の芸術家たちにも通じています。
19世紀の風景画と現代美術を見比べながら、ターナーの表現が持つ新たな魅力に出会える展覧会です。
なお、2027年1月12日(火)~2月21日(日)の期間、国立西洋美術館の常設展は閉室となります。
本展は大阪中之島美術館へ巡回します。大阪会場の会期は2027年3月13日(土)~6月27日(日)です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年10月23日 ]
※画像はすべて「テート美術館 ターナー展——崇高の絵画、現代美術との対話」展示風景 国立西洋美術館 2026年