紙漉きは中国で生み出され、日本には飛鳥時代に伝来しました。紙漉きの工程が書かれた最古の文献は、927年の「延喜式」。以降、江戸時代まで文字・図絵の紙漉き工程はほとんど記録されていません。
これにはいくつかの理由がありますが、ひとつには紙漉きの技法が地方や家ごとに異なり、独自の工夫は門外不出の秘術であったためとも言われています。
紙漉きの全工程が図解された最初の書物「紙漉大概」紙漉きの全工程が図解された最初の書物は、1784年の「紙漉大概」。肥前国唐津藩の軍師が描いたもので、楮(こうぞ)刈りから紙干しまでの工程が、彩色をした図絵で説明されています。
展覧会では6章にわたり、江戸・明治時代の絵巻や和本から、さまざまな紙漉きの図絵が紹介されています。
海外でも翻訳された「紙漉重宝記」1798年に初版が発行された「紙漉重宝記」は、紙漉きの苦労が庶民にも分かるように図解された刊本。腰をかがめて作業する女性が「こしがいたァ」とつぶやくなど、マンガのような構成はユニークです。
この紙漉重宝記は後に英語・ドイツ語・フランス語などに翻訳され、海外でも紹介されています。
江戸末期に描かれた「製紙勤労之図」江戸末期に描かれた「製紙勤労之図」は、津和野藩の絵師・山本琴谷が描いたもの。紙の専売制を取り入れていた津和野藩は、納品された紙を厳しく検査しており、絵巻にも厳しい品質検査の様子が描かれています。
その他にも、和紙を革新に導いた土佐の吉井源太、富田渓仙が描いた昭和初期の絵巻なども展示。紙の歴史ともリンクしていますので、常設展もあわせてご覧いただくことをおすすめします。
最後に、紙の博物館についてもご紹介しましょう。
桜の名所としても名高い飛鳥山公園にある、紙の博物館。王子はわが国の洋紙発祥の地で、1950年に開館後、1998年に現在の場所に移転オープンしました。
常設展示では、紙の歴史や現代の製紙産業などについて紹介。古今東西の紙に関する資料を幅広く収集・保存・展示する世界有数の紙の総合博物館です。毎週土・日には、牛乳パックの再生原料を使った紙すき教室も実施しています。
常設展示「第3展示室 紙の歴史」すぐ近くには北区飛鳥山博物館、渋沢史料館があり、「飛鳥山3つの博物館」で三館共通券も発行しています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2012年4月3日 ]