弥生美術館では2006年以来となる松本かつぢの回顧展。本年4~6月には
兵庫県立歴史博物館でもかつぢ展が開催されるなど、没後四半世紀を過ぎてもその人気は健在です。
松本かつぢの代表作としてまず挙げられるのは「くるくるクルミちゃん」。昭和13年に登場、文房具なども多数販売され、日本の女児向けキャラクターの第一号といえる存在です。
連載は戦後も続き、掲載誌を変えながら断続的に35年にわたって連載が続けられました。
多くのグッズが誕生した「クルミちゃん」松本かつぢは旧制立教中学在学中からカット描きのアルバイトをしており、抒情画家や挿絵画家としても活躍しました。
同時代の他の作家との大きな違いは、かつぢは極めて器用に複数の画風を描き分けられたこと。ユーモアあふれる挿絵、迫真の挿絵、繊細な抒情画…。そのため、一冊の雑誌の様々なページにかつぢの作品が登場する事もありました。
挿絵の仕事も数多く手がけています近年の研究では、かつぢはかなり前からまんがを描いていた事が分かってきました。
初期の作品のひとつが「?(なぞ)のクローバー」、「少女の友」昭和9年4月号の付録として描かれました。
躍動的な人物表現、映画のような場面の描き方。少女まんがの基点とも言われる手塚治虫「リボンの騎士」より、実に20年も前の作品なのです。
「?(なぞ)のクローバー」昭和30~40年代には、かつぢが描いたキャラクターがあしらわれたベビー用品も一世を風靡しました。
ベビーブームの中にあって、かつぢの愛らしいイラストは時代のニーズを掴んで大ヒット。(株)コンビから発売された食器シリーズは特に有名です。
そんなかつぢが人生最後に取り組んだのが「ハームとモニーの12ケ月」。仕事ではなく自らのライフワークとして描いたもので、季節を代表する草花と二人の幼子を描きました。
ベビー用品と、「ハームとモニーの12ケ月」かつぢは1986(昭和61)年に永眠。日本のキャラクター文化に大きな足跡を残した、82歳の生涯でした。
現在は二子玉川にあるかつぢの旧宅が「松本かつぢ資料館」として整備されています(予約制)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年10月9日 ]