古くから家畜化され、人に最も近い動物といえるイヌ。日本でも古墳時代にも埴輪が象られるなど、古くから絵画や彫刻で表現されてきました。本展はその埴輪も含め、近世・近代、そして現代の画家や彫刻家によるイヌの作品まで、約90点を紹介していきます。
大きな屏風は、江戸時代に描かれた《犬追物図屏風》。騎馬の武士が犬を射る伝統的な訓練ですが、現代の感覚だとちょっとかわいそうにも思えます。
他にも掛軸や絵巻から小さな根付まで、さまざまに表現されたイヌが揃っています。
展示室入口から展示室の中ほどには肉筆浮世絵の美人画が3点、いずれも狆(ちん)と美人が描かれています。狆は日本固有の小型犬。愛玩用の座敷犬として人気がありました。
あまり聞かなくなりましたが、「ちんくしゃ」は狆がくしゃみをしたような顔の事で、不美人の形容詞。狆が一般的に親しまれていた名残といえます。
狆(ちん)と美人上階に上がると、洋犬が紹介されています。安土桃山時代から近世にかけて日本に渡来した洋犬。それまでの日本のイヌは放し飼いだったため、首輪を紐で結ぶ姿も珍しかったようで、首輪を付けた姿でしばしば描かれています。
堂々としたブロンズ像は、大正時代の警察犬をモデルにした《スター》。作者の朝倉文夫は愛猫家で知られますが(「ねこ・猫・ネコ」展にもたくさん出品されていました)、イヌや兎、牛、猿なども作っています。
このフロアには、特別出品作品も。中島千波と畠中光亨の両氏によるイヌを描いた新作です。
2階は洋犬の数々渋谷のイヌといえば、忠犬ハチ公。ハチの飼い主は松濤に住んでいたため、おそらく美術館のそばも散歩していた事と思われます。展示されているのは初代ハチ公像の試作像(現在のハチ公像は二代目)です。
日本のおとぎ話にも、イヌはしばしば登場します。桃太郎では家来に、花咲爺では幸運をもたらす存在として、人に近い立場で登場する事が多いようです。
イヌを連れた姿で銅像にまでなったのが、西郷隆盛。像と絵ではイヌの種類が違うように見えますが(2頭連れた絵もあります)、西郷さんは20頭あまりのイヌを飼っていたそうです。
著名なイヌも展覧会の担当は「ねこ・猫・ネコ」展と同じ渋谷区立松濤美術館の味岡義人上席研究員。味岡さんの好みが気になるところですが、意外にも「猫派でも犬派でもなく、さらに言えば、鳥獣虫魚いずれも触るのもためらう質」(展覧会公式図録より)との事です。
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[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年4月14日 ]※会期中に一部展示替えがあります。