イギリスの生活文化に大きな変化をもたらし、デザインブームの火付け役になったサー・テレンス・コンラン(1931-2020)。
ホームスタイリングを提案するショップ「ザ・コンランショップ」が日本初出店から今年で30年を迎えることを記念し、コンランの人物像に迫る日本初の展覧会が、東京ステーションギャラリーで開催中です。
東京ステーションギャラリー「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」会場入口
会場では8つのセクションに分けて、初期プロダクトから、家具デザインのためのマケット、ショップやレストランのためのアイテム、発想の源でもあった愛用品や写真など、300点以上の作品や資料が並んでいます。
第1章「デザイナー、コンランのはじまり」会場
ロンドンのデザインの名門校でテキスタイルを学んだコンランは、戦後まもなくテキスタイルや食器のパターン・デザイナーとして活動を開始。ウィリアム・モリスが提唱したアーツ&クラフト運動やバウハウスの影響を受けながら、10代のころからデザイナーの道を歩みはじめます。
英国祭で自作のデザインを発表したことを機に、活躍の場を広げたコンラン。食器製造会社からの依頼によって生まれた〈チェッカーズ〉シリーズをはじめ、食器やテキスタイルのパターンで注目されるようになります。
第1章「デザイナー、コンランのはじまり」会場
コンランは、思い通りの陳列方法を実践するために1964年に生活用品の小売店「ハビタ(habitat)」をオープンします。店頭では、在庫の全てが見えるほど高く積み上げた陳列で、デザインの豊富さをアピール。「ハビタ」は瞬く間に人気を博し、国際的にチェーン展開していきます。
第2章「起業の志:ハビタとザ・コンランショップ」会場 「ハビタ」で実際に販売されていた製品
第2章「起業の志:ハビタとザ・コンランショップ」会場
1973年には、より上質な製品の提案を目指して「ザ・コンランショップ」をオープンさせます。現在のセレクトショップの先駆けともいえる業態で、個性ある住居環境が提案するスタイルは世界のデザイン市場を大きく変えました。
第2章「起業の志:ハビタとザ・コンランショップ」会場
戦後、食糧不足や配給制度が長く続いていたことで衰退していたイギリスの食事情。コンランは、1950年代半ばにフランスを訪ねたことをきっかけに、「食」に関する喜びを提案することもライフスタイルの提案の延長線上にあることに気が付きます。
1980年代半ば以降から本格的なレストラン事業事業を展開。レストランの内装やメニュー、カトラリー、スタッフの制服や動作までディレクションし、2000年代までに約50の店舗を構えるほどに成長しました。
第3章「食とレストラン」会場
1970年代後半から、ロンドン中心部から西に100キロほど離れたバートン・コートに自邸を構えたコンラン。菜園や庭いじりを楽しみながら、レストラン用のレシピの開発や雑誌の撮影、家具工房ベンチマークのためのスケッチに没頭しました。
2階の展示室では、コンランのインスピレーションの源でもあった愛用品の一部が、没後初めて紹介されています。
第4章「バートン・コート自邸」会場
今回、展覧会の会場を手掛けたのは「SKWAT(スクワット)」。家具やプロダクトを住宅の様なスケールで見せた3階の会場に対して、2階では単管パイプを張り巡らせたダイナミックな展示空間が広がっています。
第4章「バートン・コート自邸」会場
1980年代から90年代初頭にかけてバブル経済を謳歌した日本では、建築やプロダクトデザインなどの分野でも世界的評価を得る成果が生み出されました。 「ザ・コンランショップ」は1994年に日本に初上陸。出店をきっかけにコンランは日本でのプロジェクトに多く携わり、自らスケッチを描き、内装のデザインやプロジェクトにも参加しました。
第7章「日本におけるプロジェクト」会場
住宅に関するハウツーやアイディアに溢れるコンランの著書『The House Book』(1974年)は、250万部以上の販売数を記録し、日本のデザイナーの必携書でもありました。コンランは出版社も所有しており、携わった書籍類は約80冊にも及びます。
第8章「未来にむけて」会場
出版と同時に力を注いでいたのが「デザイン・ミュージアム」の構想でした。1982年にヴィクトリア&アルバート美術館の一角で展覧会を次々と開催。1989年には産業デザインをテーマとした世界初の「デザイン・ミュージアム」を開館させます。
コンランが私財を投じて実現させた「デザイン・ミュージアム」では、様々なワークショップや学習プログラムを開催しています。それらを通して養われる発想力が暮らしや社会を心地よいものに変えるという、テレンス・コンランの理想が今も受け継がれてい場所といえます。
第8章「未来にむけて」会場
会場には、あちこちにコンランが残した言葉も展示されています。製品や映像だけでなく、彼の言葉からも暮らしの中でデザインの持つ意味や楽しさを感じることができる展覧会です。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2024年10月11日 ]