石川の冬といえば、カニ!金沢おでん!そして雪吊り。冬ならではの味覚もさることながら、街に広がる雪景色は格別の趣があります。
そんな冬の間に国立工芸館で開催されているのは、「移転開館5周年記念 令和6年能登半島地震復興祈念 工芸と天気展-石川県ゆかりの作家を中心に- 」です。

国立工芸館
能登半島地震直後は、毎朝、毎晩、天気予報を見つめていました。「どうか、どうか能登に大雪が降りませんように」テレビの前で、ただ祈ることしかできない日々に、天気が人々の暮らしをどれほど左右するかを痛感しました。
そんな「天気」と「工芸」はどう結びつくのでしょうか?その答えを探しに、展示室へと進んでいきます。
《 第1章 天気と生きる、天気とつくる》
最初の展示室では、石川に根づいた工芸技法と天気との関係に目を向けています。
工芸の素材は多くが自然由来。だからこそ、気温や湿度といった天気の変化にとても敏感です。
特に、漆は空気中の湿度や温度に反応しながら、ゆっくりと液体から固体へと姿を変える素材。まさに、天気と共に作り上げる工芸です。

作/松田権六 《蒔絵鷺文飾箱》1961年 国立工芸館蔵 水辺を悠々と舞う一羽の鷺が、卵殻(卵の殻を貼る技法)で表現されています。
金沢は、金箔の一大産地です。
その確かな技を支えているものの一つが、北陸特有の“湿度の高さ”です。
薄く叩きのばす工程では、乾燥していると金箔が破れやすいため、湿潤な空気は金箔づくりに欠かせないのです。
仕上がった金箔の薄さは、なんと1万分の1ミリ!金属でありながら、空にかざすと光を透かすほどの薄さです。 石川の天気と共に発展した伝統工芸と呼ぶにふさわしい素材です。

左:作/𠮷田美統 《釉裏金彩牡丹文飾皿》2017年 国立工芸館蔵 右:𠮷田幸央《金襴手彩色皿》2010年 国立工芸館蔵 繊細な金箔を切り取り模様を生み出す「釉裏金彩(ゆうりきんさい)」という技法です。
工芸と天気の関係は、湿度だけではありません。
「光」もまた、九谷焼の見え方に大きく関わっています。 そもそも、色は光によって生まれるもの。
物に光が当たったとき、吸収されずに反射した光の波長が私たちの目に届き、色として感じられます。
つまり、光の質が変われば、同じ色でも見え方が変わるのです。

作/三代德田八十吉 《燿彩鉢 旋律》1992年 国立工芸館蔵 鮮やかな釉薬が作り出す表情は、まるでオーロラのようです。
加賀友禅もまた、天気と密接な関係があります。
石川県ではその昔、染め上げた生地の余分な糊や染料を川で洗い流す「友禅流し」が行われていました。 しかし、友禅流しは晴れの日でなければできません。 雨が続けば水が濁り、強風の日は生地が傷つきやすい。 空模様を読み、最適な日を選ぶことも職人の大切な仕事でした。

作/木村雨山 《一越縮緬地花鳥文訪問着》1934年 国立工芸館蔵
晴れ間がのぞいた瞬間、「今日だ!」と生地を川へ・・・ そんな風景があったのだと思うと、こちらの訪問着もいっそう晴れやかに感じます。
こうした技法については、映像でも紹介されています。

展示風景
《第2章 空を見上げて/春を待つ》
この章では、天気による様々な現象をとらえた作品を通して、作家たちのまなざしに着目しています。 春の訪れを感じるほのかな陽光。霞がかった雨の気配。美しくも、時に不穏さを帯びた雲のうねり。 展示室を進むたびに、まるで天気が移り替わっていくようです。

作/二塚長生 《友禅訪問着「夕刻への雲間」》2024年個人蔵

作/二塚長生 《友禅訪問着「夕刻への雲間」》部分
「そうそう、さっきまでこんな風に雨が降っていたよね」思わずそう話しかけたくなる作品。斜めの線模様が、まるで浮世絵で描かれる雲に光が差し込む表現のように映ります。

ともに作/番浦省吾 左:《双象》1972年 国立工芸館蔵 右:《海どり》1973年 国立工芸館蔵
アルミ箔で表現された、どっしりとした雲と、色漆で描かれた世界へと続く広い海。 ぐんぐん進むような躍動感のある力強い雲を眺めていると、こちらまで前に進む力をもらえた気がします。

作/澤谷由子 《露絲紡》2022年 国立工芸館蔵
中心には六芒星が光り、朝寒の日にできる氷晶のようであり、優しく煌めく夜空のようでもある作品。 「明日はきっと晴れるよ!」そう、教えてくれているようです。
そして、今回の展覧会の図録(1,400円)表紙がホログラムになっており、移ろう天気がデザインされています。

展覧会図録

国立工芸館
[ 取材・撮影・文:的場マイ / 2025年10月21日 ]