島根から世界へ
この言葉で真っ先に思い浮かぶのはテニスプレイヤーの錦織圭選手。ウィンブルドンなどの世界の大会で大活躍する姿は強烈なインパクトがありました。
その遥か昔、100年以上前に島根から世界へ羽ばたいた画家がいました。それが石橋和訓さんです。
今回は、島根県立美術館で開催中の「島根から世界へ― 生誕150年 石橋和訓展」に行って来ましたのでレポートします。

島根県立美術館
石橋和訓さんは島根県出雲市のご出身(おそらくパワースポットで有名な須佐神社の辺りだと思われます)。地元で絵の手ほどきを受け、その後、松江に出て絵を学びます。

島根県立美術館「島根から世界へ― 生誕150年 石橋和訓展」会場
そして松江から東京へ。東京からイギリスへご縁を繋いで羽ばたいていきます。
イギリスでは、ロイヤル・アカデミー・スクールに日本人で初めて入学しました。名前からして厳格で伝統的な学校であっただろうと想像できます。彼はここで肖像画で知られるジョン・シンガー・サージェントに師事します。
驚異的なステップアップですよね。才能の素晴らしさはもちろん、周囲の人が支援したくなるようなお人柄だったのではないでしょうか。

島根県立美術館「島根から世界へ― 生誕150年 石橋和訓展」会場
今回の展示で圧倒されたのが肖像画の数々。これだけ肖像画が集まった展示会は初めて観ました。

島根県立美術館「島根から世界へ― 生誕150年 石橋和訓展」会場
肖像画は富と名誉を得た人物が後世に自身の姿を残すための作品というイメージを持っています。イギリスで伝統的な技法を習得し帰国した石橋和訓さんは、多くの政財界の重要人物と縁があり肖像画の作成を依頼されたようです。
今回の展示会では大隈重信、渋沢栄一、犬養毅、若槻禮次郎など錚々たる人物の肖像画が展示されています。

「鯛」1927年
背景を暗くすることにより印影を使って人物が浮き上がっているような肖像画が多かったです。内面までも描いているように思いました。肌(顔)は人物によって色彩やタッチを変えて描いてあって、まさに十人十色でした。
金色の額縁の作品も多く、重厚感が増します。

島根県立美術館「島根から世界へ― 生誕150年 石橋和訓展」会場
そんな肖像画の中に一際光っている人物画がありました。近寄ってみましょう。

「美人読詩」1906年
陶器のように透き通る白い肌が巧みに表現されています。 顔は繊細なタッチで緻密に描いてありますが、腕は(よく見ると筆跡が残っているほど)大胆に描かれています。黒い衣服がより肌の美しさを際立たせています。左上腕の透け感なども絶妙です。読書に没頭する眼差し。まさに「美人詩読」ですね。
写真では伝わりきれない素晴らしさ。是非現地で本物を観て頂きたい作品です。

「岡倉由三郎肖像」1928年
展示は肖像画だけではありません。私が気に入ったのは魚図です。 本物かと思うほど精密にみずみずしく描かれた鯛。 魚を描いた作品は他に何点か展示してあります。
今回は回顧展なので、これらの他にも石橋さんの人生を振り返る作品が数多く集められ、展示されています。その中には大英博物館が所蔵する貴重な作品も里帰りしていました。
他の画家との交流や社会活動家としての側面も紹介されている大変盛り沢山の展示会。石橋和訓さんが遺した芸術を、そして彼の軌跡を、是非多くの方に知って頂きたいと思いました。

宍道湖の畔に建つ流線形の島根県立美術館。宍道湖と調和がとれた素敵な美術館です。手前に写っているのは宍道湖うさぎ。2匹目のうさぎが人気だとか?!
「北斎コレクション」や「水を画題とする絵画」などのコレクション展も見応えのある島根県立美術館。3月〜9月は日没後30分開館しています。日本の夕陽百選に選ばれている宍道湖の夕日と芸術を楽しんでみてはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:あだちてつや / 2026年3月30日 ]