
国立工芸館
明治後期に建てられた洋風建築を活用した空間は、日本が西洋文化を取り入れていった時代を感じさせます。ルネ・ラリックの作品とも、どこか重なって感じられるこの場所は、『ルネ・ラリック展ーガレ、ドームから続く華麗なるフランスの装飾美術ー』が開催されている石川県金沢市の国立工芸館です。

国立工芸館
開国をきっかけに広まった日本文化は、ジャポニズムとして西洋に影響を与え、やがてアール・ヌーヴォー、さらにアール・デコへと発展していきました。「ルネ・ラリック展」では、こうした時代の流れを背景に、当時の華やかさや新しい美のかたちを、ジュエリーやガラス、家具、ポスターなどを通して知ることができます。
第一章『ガレとドーム / 情景を描く』

ドーム兄弟《春景文扁壺》1910年頃 国立工芸館蔵
エミール・ガレとドーム兄弟の作品を中心に花の儚さや優美さ、季節感を感じる作品が紹介されています。なかでも特に印象に残ったのは、ガレによる「獅子頭(日本の怪獣の頭)」という作品です。「日本の怪獣の頭」というこのタイトルも、どこかユーモラスで印象に残ります。

エミール・ガレ《獅子頭『日本の怪獣の頭』》1876-84年頃 国立工芸館蔵
日本の獅子を思わせる要素を持ちながらも、その表現は大きく変化しています。日本の獅子が持つ力強さや魔除けのイメージとは異なり、この作品はどこかやわらかく、親しみやすい印象です。まるで口いっぱいに何かを頬張ろうとしているかのような表情にも見えます。
唇にはエナメル彩と金彩で唐草模様が施され、口の周りのひげは渦を巻くように表現されています。細部を見ていくと、日本的な装飾が随所に取り入れられており、日本のモチーフを出発点としながら、それを新しい表現へと展開している点が、この作品の魅力の一つのように感じました。
第二章『ラリック / ジュエリーからガラスへ』

ルネ・ラリック《ブローチ 翼のある風の精》1898年頃 国立工芸館蔵

ルネ・ラリック《ブローチ 桑の木と甲虫》1900年頃 国立工芸館蔵
ラリックは1890年代以降、ガラスのパーツを取り入れたジュエリーを手がけるようになります。宝石だけでなくガラスを用いることで、新しい表現が生まれました。

ルネ・ラリック《ガラスの指輪》1931年 国立西洋美術館、橋本コレクション
この指輪はガラスのみで作られており、側面には花の模様がさりげなく施されています。装飾は控えめで、当時の服装にも合わせやすい、シンプルなデザインとなっています。光のもとで指に通したら、どんなふうに見えるだろうか・・・。
淡い青の光が指先に広がり、動きに合わせてやわらかく揺れる。そんな情景が自然と浮かんできます。さりげないのに、ふと目を引くような美しさだったのではないでしょうか。
第三章『時代とともに / ラリックとアール・デコ』

ルネ・ラリック《カーマスコット 勝利の女神》1928年 井内コレクション(国立工芸館寄託)

ピエール・シャロー 書斎机、椅子 1928年頃 国立工芸館蔵
アール・デコは、ラリックが最も活躍した時代です。自動車や電気、ラジオが普及し、人々の暮らしが大きく変わっていった時代でもあります。
こうした流れの中で、家具やカーマスコット(車の先端に付ける装飾品)など、生活に関わるさまざまなものにも美しさが追求されるようになりました。展示されている作品の種類からも、暮らしそのものが新しいデザインへと変わっていったことが感じ取れます。
この章で特に惹かれたのは、照明にこだわったという展示です。なかでも「花瓶 オラン」と「立像 泉の精 タリア」は印象的でした。

ルネ・ラリック 花瓶 オラン 1927年 井内コレクション(国立工芸館寄託)

ルネ・ラリック 立像 泉の精 タリア(部分) 1924年 井内コレクション(国立工芸館寄託)
ガラスは光の当て方によって表情が大きく変わります。国立工芸館ならではのこだわった展示によって、作品の魅力が最大限に引き出されているように感じました。また、どちらの作品も360度さまざまな角度から見ることができます。見る位置によって印象が変わるため、時間をかけて鑑賞するのもおすすめです。
さらに、国立工芸館では金沢市出身の松田権六氏の展示コーナーが常設されています。

松田権六《牡丹文蒔絵方盆》1983年 国立工芸館蔵
今回はルネ・ラリック展にあわせて、植物をモチーフにした作品やスケッチが紹介されていました。ラリックの作品とあわせて見ることで、素材や技法は異なりますが、共通するテーマも感じられます。
ラリックが活躍した時代の華やかさが凝縮された図録です。

図録2,200円
作品の細部や全体像をじっくり見返すことができ、展覧会の理解を深めてくれます。 しかし、ページをめくるうちに、やはり実物でもう一度見たいという気持ちが強くなりました。ガラスならではの透明感や光の反射は、実際の展示でこそ感じられるものです。 図録とあわせて、ぜひ実際の美しさを味わってほしいと思います。
[ 取材・撮影・文:的場マイ / 2026年3月19日 ]