武器・武具は戦闘の道具であると同時に、武士の威厳や美意識を示す装身具でもありました。根津美術館の企画展「英姿颯爽 ― 根津美術館の武器・武具 ―」は、同館の優れたコレクションを通して、日本の武具文化の奥行きを紹介する展覧会です。
刀剣や刀装具、甲冑、馬具など約100件を展示し、実用性と装飾性が融合した武士の世界を多角的に読み解きます。光村利藻による体系的な蒐集を基盤とするコレクションの価値にも注目が集まります。

根津美術館「英姿颯爽 ― 根津美術館の武器・武具 ―」会場
鎌倉時代の名工・長船長光による重要美術品《太刀 銘 長光》は、身幅が広く重厚な姿が特徴の大作です。地には鮮やかな乱れ映りが立ち、互の目と丁子を組み合わせた刃文が力強さを際立たせます。
付属する《桜紅葉蒔絵太刀拵》は金地に豪華な蒔絵を施し、桜と紅葉の折枝文を散らした華麗な装飾が見どころです。金具や裂地に配された葵紋が、格式の高さを物語っています。

重要美術品《太刀 銘 長光》鎌倉時代 13世紀 根津美術館蔵 / 《桜紅葉蒔絵太刀拵》江戸時代 19世紀 根津美術館蔵
重要美術品《脇指 銘 広光》は、刃文が全面に広がる皆焼(ひたつら)の代表例です。焼頭が丸くふくらむ団子丁子が随所に見られ、華やかな乱れが特徴となっています。
南北朝期の刀工・広光の個性が色濃く表れた一振で、豪放さと精緻さを兼ね備えた作風は同工の真骨頂といえます。躍動感ある刃文が強い存在感を放ちます。

重要美術品《脇指 銘 広光》南北朝時代 14世紀 根津美術館蔵
明治期の刀工・月山貞一による《太刀 銘 月山貞一造之 明治三十六年春》は、名刀「小烏丸」を写した作品です。古作への深い理解に基づき、忠実に再現されています。
地鉄に見られる月山流の杢目や豊かな刃境の景色には、近代刀工としての創意も感じられます。伝統と近代が交差する興味深い一振です。

《太刀 銘 月山貞一造之 明治三十六年春》明治36年(1903)根津美術館蔵
光村利藻が収集した刀装具は、日本最大級の体系的コレクションとして知られます。現在も多数が同館に所蔵され、京金工を中心に各地の装剣金工を網羅しています。
町彫の粋を味わえる作品が多く、明治期の金工技術保存にも貢献した点が特徴です。新調された拵などから、近代における刀装文化の継承の姿が見えてきます。

根津美術館「英姿颯爽 ― 根津美術館の武器・武具 ―」会場
後藤一乗は光村コレクションの中でも特に作品数が多い名工です。伝統的な後藤家の技法を守りつつ、新しい素材や意匠にも挑戦しました。
《霊芝図縁頭》では通常用いない鉄を素材とし、晩年の新境地を示しています。伝統への敬意を保ちながら革新を試みた姿勢がうかがえます。

(上から)《雪中松柏図大小縁頭》後藤一乗 作 江戸時代 19世紀 根津美術館蔵 / 《霊芝図縁頭》後藤一乗 作 江戸時代 19世紀 根津美術館蔵
大月光興は京金工を代表する名工で、絵画的な意匠と高度な技術を融合させた作風で知られます。廉価な素材に古色を施すなど、新しい表現を切り開きました。
門下には多くの名工が集い、大月派として一大流派を形成しました。作品は情感豊かなものから豪快なものまで幅広く、上品な表現にまとめられています。

(左から)《蓮鷺図鐔》大月光興 作 江戸時代 18~19世紀 根津美術館蔵 / 《維摩居士図縁頭》大月光興 作 江戸時代 18~19世紀 根津美術館蔵
《鮫研出刻鞘大小拵》は、本展のメインビジュアルとなる豪華な拵です。月山貞一作の刀と脇指に合わせ、光村が整えたと考えられています。
高級素材の鮫皮を用いた鞘や、後藤一乗の金具などが調和し、コレクションの象徴ともいえる華麗な一具となっています。

《鮫研出刻鞘大小拵(刀)》後藤一乗、池田隆雄 作 江戸~明治時代 19~20世紀 根津美術館蔵 / 《鮫研出刻鞘大小拵(脇指)》後藤一乗、池田隆雄 作 江戸~明治時代 19~20世紀 根津美術館蔵
甲胄や馬具もまた、武士文化を象徴する重要な存在です。光村コレクションの出発点は、息子の初節句のために本物の甲胄を購入したことでした。
現在同館には当世具足を中心に28件の武具が伝わり、武士の実用装備としての側面と装飾的な魅力の双方を伝えています。

根津美術館「英姿颯爽 ― 根津美術館の武器・武具 ―」会場
重要文化財《黒韋肩取威腹巻》は、室町時代の優品で、当初の状態をよく残す貴重な作例です。背面で引き合わせる腹巻形式の甲冑です。
黒韋を基調に紅白糸の肩取威を施し、機能性と装飾性を兼ね備えています。武具としての実用と美意識が融合した姿を見ることができます。

重要文化財《黒韋肩取威腹巻》室町時代 16世紀
武具を単なる戦闘具ではなく、美術工芸として捉え直す本展は、日本文化における武士の精神と美意識を改めて浮かび上がらせます。精緻な造形と豪華な装飾の世界を、ぜひ会場で体感してみてください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年2月13日 ]