印象派を代表する画家クロード・モネ。その作品は100年を経た今もなお、多くのアーティストに刺激を与え続けています。ポーラ美術館が収蔵する19点の油彩画は、モネの画業をたどることのできるアジア最大のコレクションです。
同館で開催中の「モネ没後100年・開館25周年記念 あたらしい目 ― モネと21世紀のアート」では、その全19点を一挙公開。さらに国内外18組の現代作家による作品と組み合わせることで、モネの芸術を現代の視点から読み解き、新たな鑑賞体験を提示しています。

ポーラ美術館「モネ没後100年・開館25周年記念 あたらしい目 ― モネと21世紀のアート」会場入口
会場は、モネの絵画と現代アートが並ぶ構成です。時代も手法も異なる作品同士を対話させることで、モネの絵画が現代にも通底する多様なテーマを内包していることが浮かび上がります。
まず目を引くのは、《睡蓮の池》とノエミ・グダル《デルタⅢ》の展示です。モネが描いた自作の庭の風景に対し、グダルは人工の風景を写真に記録して提示します。異なる時代の作品でありながら、風景を再構築するという共通の視点が感じられます。

(左から)クロード・モネ《睡蓮の池》1899年 ポーラ美術館 / ノエミ・グダル《デルタⅢ》2025年 ポーラ美術館
モネ《ルーアン大聖堂》はヴォルフガング・ティルマンスの作品と隣り合って展示されています。
《ルーアン大聖堂》は、時間や天候によって変化する光を描き分けた連作のひとつ。夕陽を浴びてバラ色に染まる大聖堂の姿には、刻々と移ろう時間そのものが刻み込まれています。
一方、ティルマンスも光の変化を主題に制作を続けており、スタジオに差し込む光を写した作品からは、静かな時間の流れが感じられます。両者は異なる表現手法を用いながら、光によって時間を可視化する試みを共有しています。

(左から)クロード・モネ《ルーアン大聖堂》1892年 ポーラ美術館 / クロード・モネ《サルーテ運河》1908年 ポーラ美術館

ヴォルフガング・ティルマンス《光に満ちて a》2011年 作家蔵
続いて、《セーヌ河の日没、冬》とフェリックス・ゴンザレス=トレスの作品群。
妻カミーユを失った直後に描かれた《セーヌ河の日没、冬》には、静かな喪失感が漂います。これに対しゴンザレス=トレスは、キャンディや電球といった日常的な素材を用いて不在の存在を表現しました。本展では青いキャンディは川面を流れる氷塊に、カーテンは冷たい風に、電球は沈む夕陽に重ねられています。愛する人を失った経験を作品へ昇華した両者の視点が響き合います。

(左)クロード・モネ《セーヌ河の日没、冬》1880年 ポーラ美術館 / フェリックス・ゴンザレス=トレス《「無題」(ラヴァーボーイ)》1989年 フェリックス・ゴンザレス゠トレス財団 / フェリックス・ゴンザレス=トレス《「無題」(アメリカ #3)》1992年 ポーラ美術館 / フェリックス・ゴンザレス=トレス《「無題」(マルセル・ブリアンの肖像)》1992年 ポーラ美術館
モネが描いたテムズ川と、ロニ・ホーンによる《静かな水(テムズ川、例として)》も印象的な組み合わせです。
ロンドン滞在中のモネは、霧に包まれた国会議事堂を繰り返し描き、大気や光の変化をとらえました。一方のロニ・ホーンは、テムズ川の写真と断片的なテキストを組み合わせることで、水面の下に沈む記憶や歴史を呼び起こします。風景を描くという行為を通じて、両者は目に見えない時間や記憶へと視線を向けています。

クロード・モネ《国会議事堂、バラ色のシンフォニー》1900年 ポーラ美術館

ロニ・ホーン《静かな水(テムズ川、例として)》1999年 ポーラ美術館
アローラ&カルサディーラとモネの展示は、「庭」がテーマです。
モネはジヴェルニーに自ら庭を造り、睡蓮の池や太鼓橋を備えた理想の風景を創り出しました。アローラ&カルサディーラは、木漏れ日や造花によって別の土地の記憶を展示空間に出現させています。

アローラ&カルサディーラ《接ぎ木》2021年 ポーラ美術館 / アローラ&カルサディーラ《半影(箱根)》2026年 ポーラ美術館 / (左)クロード・モネ《バラ色のボート》1890年 ポーラ美術館
最後にご紹介するのは、モネ《睡蓮》とピエール・ユイグ《異系知性(淵)》。
晩年のモネは、睡蓮の池を描くことで、水面に映る光や空気、環境そのものを作品化しました。ユイグはその発想をさらに発展させ、人間以外の知性や生態系へと視線を向けます。人間の知性の象徴である頭部を蜂の巣に覆われた女性像は不穏さを感じさせながらも、人間中心ではない新たな世界の見方を提示しています。

クロード・モネ《睡蓮》1907年 ポーラ美術館

ピエール・ユイグ《異系知性(淵)》2017年 ポーラ美術館
モネの作品を単独で鑑賞するのではなく、現代アートとの対話のなかで捉え直すことで、新たな発見が生まれる展覧会です。
光や時間、記憶、不在、環境といったテーマは、100年前に没したモネから現代作家へと受け継がれ、いまなお更新され続けています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年6月16日 ]