モネ、セザンヌ、ファン・ゴッホ、ピカソなど、ヨーロッパ近代美術の巨匠たちの作品が、アメリカから来日しました。
上野の森美術館で開催されている「シンシナティ美術館展 ~アメリカに渡ったヨーロッパの至宝~」では、同館のコレクションから84点が集結。うち81点が日本初公開で、19世紀から20世紀にかけての美術の変遷をたどります。

上野の森美術館「シンシナティ美術館展」会場入口
序章「芸術家の姿」では、19世紀から第一次世界大戦前夜にかけての芸術家の肖像に注目します。
新古典主義からレアリスム、モダニズムへ。肖像表現の変化から、芸術家とモデルの関係や、芸術に対する考え方の移り変わりが見えてきます。

序章「芸術家の姿」 「シンシナティ美術館展~アメリカに渡ったヨーロッパの至宝~」展示風景、上野の森美術館、2026年
「伝統」の章では、19世紀ヨーロッパ美術の基盤となったアカデミー絵画から、新たな表現への広がりをたどります。
古典的な主題や理想化された人体表現が重んじられる一方、バルビゾン派やレアリスムの登場によって、身近な風景や人々の暮らしにも関心が向けられるようになりました。

「伝統」展示風景 「シンシナティ美術館展~アメリカに渡ったヨーロッパの至宝~」展示風景、上野の森美術館、2026年
19世紀ヨーロッパで広がったジャポニスムを伝えるのが、ジェームズ・ティソ(1836-1902)の《日本の工芸品を眺める娘たち》。日本の品々を眺める二人の女性が、細やかに描かれています。
ティソ自身も日本美術の熱心な収集家で、作品には所有していた品々を取り入れました。当時のヨーロッパにおける日本文化への関心がうかがえます。

ジェームズ・ティソ《日本の工芸品を眺める娘たち》1869年 シンシナティ美術館
ウィリアム=アドルフ・ブグロー(1825-1905)の《粥を食べる少女》は、素朴な室内で、少女が陶器のボウルから粥を食べる姿を描いた作品です。
ブグローはアカデミー絵画を代表する画家。緻密で洗練された技法を用いながら、労働者の子どもを純粋で安らかな存在として理想化しています。

ウィリアム=アドルフ・ブグロー《粥を食べる少女》1874年 シンシナティ美術館
「革命」の章では、19世紀半ばのフランスで、伝統的な絵画の規範に挑んだ芸術家たちの動きを追います。クールベやマネらは、同時代の生活や新たな表現に目を向けました。
1874年にはモネやルノワールらが独自の展覧会を開催し、印象派が登場。光や色彩を追求する動きは、さらにゴッホやゴーギャンらへと受け継がれていきました。

「革命」展示風景 「シンシナティ美術館展~アメリカに渡ったヨーロッパの至宝~」展示風景、上野の森美術館、2026年
ポール・セザンヌ(1839-1906)の《パンと卵のある静物》は、20代半ばに描いた初期作品です。パンや卵、玉ねぎなどを、暗い色調と厚塗りの荒々しい筆遣いで表現しています。
後年の構築的な静物画とは異なる、若きセザンヌの試みが感じられます。1865年のサロンで落選した作品と考えられています。

ポール・セザンヌ《パンと卵のある静物》1865年 シンシナティ美術館
クロード・モネ(1840-1926)の《ベリールの岩場、ポール=ドモワ》は、ブルターニュ沖のベリール島を描いた作品。モネは1886年に約2か月間滞在し、険しい岩場と荒れる海を繰り返し描きました。
青や紫、黄色、ピンクなど、大胆な色彩を重ねた筆触が特徴です。穏やかな水辺とは異なる、荒々しい自然の力強さが伝わってきます。

クロード・モネ《ベリールの岩場、ポール=ドモワ》1886年 シンシナティ美術館
本展の大きな見どころが、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の《ポプラ林の中の二人》です。亡くなる直前の1890年に描かれた作品で、紫がかった木々の間に二人の人物が小さく描かれています。
うねるような筆遣いと鮮やかな色彩が画面全体に広がり、静かな林に生命感を与えています。最晩年のゴッホならではの表現が感じられる一作です。

フィンセント・ファン・ゴッホ《ポプラ林の中の二人》1890年 シンシナティ美術館
「モダニズム」の章では、20世紀前半のヨーロッパで生まれた多様な表現に目を向けます。ピカソらによるキュビスムは形態を解体し、フォーヴィスムや表現主義では大胆な色彩によって感情や内面を表しました。
こうした革新は抽象表現へと発展する一方、具象表現も続きました。従来の写実にとらわれず、形や色彩の可能性を追求した芸術家たちの歩みをたどります。

「モダニズム」展示風景 「シンシナティ美術館展~アメリカに渡ったヨーロッパの至宝~」展示風景、上野の森美術館、2026年
フェルディナント・ホドラー(1853-1918)の《聖なる時間》は、青い衣装をまとった二人の女性が静かに向かい合う作品です。
人物の姿勢や衣装の曲線を反復させる「平行主義」は、ホドラー独自の表現。儀式を思わせる静かな雰囲気に、象徴主義の特徴が表れています。

フェルディナント・ホドラー《聖なる時間》1907-1911年頃 シンシナティ美術館
アカデミー絵画から印象派、ポスト印象派、モダニズムへ。約1世紀にわたるヨーロッパ美術の変化を、シンシナティ美術館のコレクションから見渡すことができます。
日本初公開の作品が大半を占める本展。よく知られた巨匠たちの新たな一面に出会いながら、近代美術の多彩な展開をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年10月9日 ]