京都・紫野に広がる大徳寺。1326年の開創以来、天皇や戦国武将、千利休をはじめとする茶人たちの信仰を集め、日本の文化にも大きな影響を与えてきました。
開創700年を記念し、大徳寺と塔頭寺院などに伝わる国宝14件、重要文化財69件を含む名宝を紹介する展覧会が、東京国立博物館で開催されます。大徳寺の寺宝がまとまって紹介されるのは41年ぶり、東京では初めての機会です。

東京国立博物館「大徳寺 本朝無双之禅苑」会場入口
展覧会は、序章~全5章~終章の構成。序章「禅の広がり――心から心へ」では、インドから中国、そして日本へと伝わった禅の流れをたどります。師から弟子へと受け継がれてきた教えとともに、禅宗と深く結びついた水墨美術にも注目します。

序章「禅の広がり――心から心へ」
中国・南宋時代の画僧、牧谿による国宝《観音猿鶴図》は、日本の水墨画にも大きな影響を与えた名品です。観音、猿、鶴をそれぞれ一幅に描いた三幅対で、柔らかな墨の濃淡が静けさや生命感を生み出しています。
墨だけで豊かな世界を表現した作品は、禅宗美術の奥深さを伝えています。
![東京国立博物館「大徳寺 本朝無双之禅苑」会場より 国宝《観音猿鶴図》牧谿筆 中国・南宋時代・13世紀 大徳寺[展示期間:10/14〜11/8]](https://www.museum.or.jp/storage/article_objects/2026/10/13/ac183a6f1280.jpg)
国宝《観音猿鶴図》牧谿筆 中国・南宋時代・13世紀 大徳寺[展示期間:10/14〜11/8]
第1章「大徳寺の開創」では、大徳寺を開いた宗峰妙超(大燈国師)に焦点を当てます。1326年、花園上皇や後醍醐天皇の帰依を受けて開かれた大徳寺は、南北朝の動乱の中でも両朝の支持を集めて発展しました。

第1章「大徳寺の開創」
国宝《宗峰妙超像》は、大徳寺開山の姿を伝える肖像画です。威厳のある表情と堂々とした姿からは、厳しい修行を重んじた禅僧の気迫が感じられます。
画面には宗峰妙超自身による賛も記されており、その人物像を知るうえでも貴重な作品です。
![東京国立博物館「大徳寺 本朝無双之禅苑」会場より 国宝《宗峰妙超像》自賛 南北朝時代・建武元年(1334) 大徳寺[展示期間:10/14〜11/8]](https://www.museum.or.jp/storage/article_objects/2026/10/13/af378f3effb3.jpg)
国宝《宗峰妙超像》自賛 南北朝時代・建武元年(1334) 大徳寺[展示期間:10/14〜11/8]
第2章「大燈禅の継承」では、宗峰妙超の教えを受け継いだ禅僧たちを紹介。大徳寺は幕府の五山制度から距離を置き、独自の道を歩みながら、堺の商人たちにも支持を広げていきました。

第2章「大燈禅の継承」
この時代を代表するのが、「一休さん」で知られる一休宗純です。重要文化財《一休宗純像》に描かれているのは、頓知話で親しまれる少年とは異なる、厳しい表情の老僧の姿です。
一休自身が記した賛も残されており、権威や形式にとらわれない禅僧の実像に迫ることができます。
![東京国立博物館「大徳寺 本朝無双之禅苑」会場より 重要文化財《一休宗純像》自賛、宗辨禅人請 室町時代・15世紀 京都・酬恩庵[展示期間:10/14〜11/8]](https://www.museum.or.jp/storage/article_objects/2026/10/13/6e114d9d81d6.jpg)
重要文化財《一休宗純像》自賛、宗辨禅人請 室町時代・15世紀 京都・酬恩庵[展示期間:10/14〜11/8]
第3章「戦国武将と塔頭」では、戦国時代に大徳寺が大きく発展した背景を紹介します。織田信長や豊臣秀吉ら有力武将の帰依を受け、境内には塔頭と呼ばれる寺院が次々と建立されました。

第3章「戦国武将と塔頭」
注目は、狩野松栄による重要文化財《仏涅槃図》。高さ6メートルを超える大画面に、釈迦の入滅を悲しむ弟子や動物たちが描かれています。
狩野永徳の父としても知られる松栄が手がけた大作で、数多くの人物や動物を描き分けた表現と、その壮大な規模が見どころです。
![東京国立博物館「大徳寺 本朝無双之禅苑」会場より 重要文化財《仏涅槃図》狩野松栄筆 室町時代・永禄6年(1563) 大徳寺[展示期間:10/14〜11/8]](https://www.museum.or.jp/storage/article_objects/2026/10/13/778aa834e601.jpg)
重要文化財《仏涅槃図》狩野松栄筆 室町時代・永禄6年(1563) 大徳寺[展示期間:10/14〜11/8]
茶人たちが珍重した国宝《大井戸茶碗 喜左衛門井戸》も見逃せません。朝鮮半島で作られた素朴な茶碗ですが、ゆったりとした形や釉薬の表情に、茶人たちは特別な美を見いだしました。
装飾を尽くした美しさとは対照的な、茶の湯独自の美意識を伝える名品です。
![東京国立博物館「大徳寺 本朝無双之禅苑」会場より 国宝《大井戸茶碗 喜左衛門井戸》韓国慶尚南道 朝鮮時代・16世紀 京都・孤篷庵[通期展示]](https://www.museum.or.jp/storage/article_objects/2026/10/13/b430e29824c3.jpg)
国宝《大井戸茶碗 喜左衛門井戸》韓国慶尚南道 朝鮮時代・16世紀 京都・孤篷庵[通期展示]
第5章「禅宗美術の精華」では、大徳寺に受け継がれてきた美術の豊かさを紹介します。歴代の権力者や豪商の支援によって集められた文物に加え、塔頭の堂内を飾った障壁画など、日本美術史に残る名品が並びます。

第5章「禅宗美術の精華」
重要文化財《百鬼夜行絵巻》は、さまざまな妖怪が行列する様子を描いた作品です。器物などが奇妙な姿に変わり、次々と現れる妖怪たちの表情や動きには、ユーモアも感じられます。
一休ゆかりの真珠庵に伝わる作品で、禅寺が育んできた文化の幅広さを示しています。
![東京国立博物館「大徳寺 本朝無双之禅苑」会場より 重要文化財《百鬼夜行絵巻》伝土佐光信筆 室町時代・15世紀 京都・真珠庵[会期中、巻替えあり]](https://www.museum.or.jp/storage/article_objects/2026/10/13/e78b9dc063c0.jpg)
重要文化財《百鬼夜行絵巻》伝土佐光信筆 室町時代・15世紀 京都・真珠庵[会期中、巻替えあり]
終章「禅とともに――大徳寺三門の世界」では、大徳寺の象徴である三門「金毛閣」の世界を紹介します。応仁の乱後に再建が進められた三門は、千利休が上層を造営したことでも知られています。
会場では、通常非公開の三門楼上が再現されました。

終章「禅とともに――大徳寺三門の世界」
利休の像は、秀吉との確執をめぐる逸話でも知られる存在です。ただし、今回公開される像は江戸時代後期から明治時代に制作されたもの。逸話だけでは語りきれない、大徳寺と茶の湯の歴史を考える機会にもなります。
![東京国立博物館「大徳寺 本朝無双之禅苑」会場より 《千利休立像》頭部:天保11年(1840) 体部:田中浄慶作、明治2年(1869) 大徳寺(三門安置)[通期展示]](https://www.museum.or.jp/storage/article_objects/2026/10/13/a477a2d30058.jpg)
《千利休立像》頭部:天保11年(1840) 体部:田中浄慶作、明治2年(1869) 大徳寺(三門安置)[通期展示]
700年の歴史の中で、時代の権力者と関わりながらも、独自の禅風を守り続けてきた大徳寺。今回写真では紹介できませんでしたが、第4章「江戸時代の名僧」には、国宝《曜変天目》も展示されています。
名僧たちの墨跡や水墨画、茶道具、障壁画など、多彩な名宝を通して、禅の教えが日本の美術や文化に与えた影響をたどることができる展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年10月13日 ]