1970年代、日本の少女漫画は大きな転換期を迎えました。登場人物の繊細な心理や壮大な物語、歴史や文化へのまなざしなど、表現の可能性を大きく広げたのが、萩尾望都、山岸凉子、大和和紀の3人です。
国立新美術館の開館20周年を記念した「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」は、国立の美術館では初となる大規模な少女漫画展。3人の約60年にわたる創作の歩みをたどります。
会場には、モノクロ・カラー合わせて800点以上の原画などが集結。繊細な線や鮮やかな色彩、ページを自在に構成する漫画ならではの表現を通して、少女漫画の豊かな世界に迫ります。

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景
大和和紀は、1966年に「どろぼう天使」でデビュー。大正時代を舞台にした「はいからさんが通る」では、恋にも仕事にも積極的な主人公・花村紅緒を描きました。明るく華やかな物語のなかに、自分の意思で生きようとする女性の姿を映し出しています。
その後も「ヨコハマ物語」や「N.Y.小町」など、時代の変化に向き合う女性たちを描き続けました。紫式部の『源氏物語』を漫画化した「あさきゆめみし」では、平安貴族の恋愛や人間模様を華麗な筆致で表現。古典文学に親しむきっかけとしても、長く読み継がれています。
大和の作品では、華やかな衣装や髪形、時代を感じさせる建築や調度品も見どころです。歴史や文化を丁寧に描き込みながら、登場人物の喜びや悲しみを生き生きと伝える表現が、色鮮やかな原画から浮かび上がります。

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景
萩尾望都は、1969年に「ルルとミミ」でデビュー。「ポーの一族」では永遠に生きる吸血鬼の少年・エドガーを主人公に、時代を超えた愛と孤独を描きました。「トーマの心臓」では少年たちの繊細な心理に迫り、少女漫画に新たな表現をもたらしました。
一方、「11人いる!」や「銀の三角」など、SFの分野でも数々の作品を発表。幻想的な世界観や緻密な物語構成を通して、人間の内面や他者との関係を描き続けてきました。少女漫画とSFの双方で高い評価を受け、国内外で幅広い支持を集めています。
萩尾の作品では、登場人物の感情を伝える繊細な線や、時間や記憶を重ねるような画面構成も大きな魅力です。美しいカラーイラストから緊張感あふれるモノクロ原稿まで、独創的な物語世界を支える表現に注目したいところです。

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景
山岸凉子は、1969年に「レフトアンドライト」でデビュー。バレエ漫画「アラベスク」では、踊る身体の美しさだけでなく、技術を磨く苦悩や人間関係まで描き、それまでのバレエ漫画とは一線を画す表現で注目を集めました。
若き日の聖徳太子を独自の視点から描いた「日出処の天子」は、大きな反響を呼んだ代表作。歴史上の人物を題材に、複雑な感情や人間の精神性を深く掘り下げました。神話や伝承を取り入れた幻想作品、ホラー、サイコスリラーなど、題材も多岐にわたります。
山岸の作品に共通するのは、人間の心の奥に潜む感情を鋭く捉えるまなざしです。しなやかな身体表現や細部まで描き込まれた衣装、独特の緊張感を生む画面構成など、原画からはその卓越した描写力が伝わってきます。

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景

「少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」国立新美術館、2026-2027年、展示風景
萩尾望都の幻想的な物語、山岸凉子の鋭い心理描写、大和和紀の華麗な歴史世界。異なる個性を持つ3人は、それぞれの表現で少女漫画の可能性を広げてきました。
印刷された漫画では気づきにくい繊細な線や色彩、巧みなコマ割りも、原画だからこそ味わえる魅力です。約60年にわたる創作の軌跡から、少女漫画が育んできた表現の豊かさを実感できる展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2026年10月27日 ]
※カラー原画は展示替えあり