展覧会概要
美術館エントランス
愛知県の豊田市美術館で、造形作家、岡﨑乾二郎の個展が始まりました。会場に入ると、作家の幅広い活動領域を示すように、レリーフ、ドローイング、絵画、彫刻、タイル、布作品など、約270点以上がゆったりと並んでいます。
一見したところ、明るい色調の作品が多く、とても楽しめそうです。
ただ、作品の配置が年代順でも、ジャンル別でもないこと、順路にも決まりはないことを聞いて、不思議に思いました。
さらに、展覧会タイトルの末尾が漢字ではなく、カタカナで「カイソウ」と表記されていることも不思議でした。それらのことを気に留めながら、展示を見始めました。
展示室にて
展示室風景
壁一面にレリーフの作品が並んでいます。どれも同じ形のようですが、色彩の影響なのか、細部はすべて異なっているように見えます。
これらの作品はすべて同じ形と思うか?と聞かれ、ずいぶん観察しましたが、よく似ているという答えしか出ませんでした。
千羽鶴なら、持ち寄った鶴の多少の相違は許容されるのでしょうが、美術作品の場合は?
展示室風景
次は、ドローイングの作品です。動物のように見えるものもあります。
ただ、平らなものばかりではなく、一部がカットされ、まくれあがっているものもあります。
平面と立体の中間的な表現を試しているのでしょう。作品をジャンル分けすることは単純ではないよ、と指摘されているようです。
展示室風景
絵画の作品です。
大型のものだけでなく、手の平サイズのものもあり、壁から離れたり、近寄ったり、通り過ぎたり、戻ったりしながら見ていきました。作品によっては、鮮やかなグリーンやオレンジが、サラダバーを連想させるものもあります。
隣り合う作品の関係性が気になり、キャプションを読んで驚きました。
作品によっては、そのタイトルがとても長く、作品の解説?と思うようなものもあります。
あるいは、小説か詩の一部を引用してタイトルにしているのだろうか?とか、主役はタイトルか?と思うようなものもあります。
美術作品は視覚的なイメージだけではない、と言われているようです。
展示室風景
巨大な彫刻作品です。
絵画作品のカラフルさとは異なり、木材の質感が強いです。
逆三角形の組み合わせが不安定そうですが、支えなしで自立しているそうです。空洞の多い作品なので、隙間から反対側の観客が見え隠れします。
下に敷いてある鉄板の茶色が妙に目立っていて、その部分を土と見立てると全体が盆栽のようにも見えます。
彫刻の枠を超えて、建築(模型)のようです。
展示室風景
巨大なタイルの壁です。聞くところによれば、既成のタイルは使わず、作家がきちんと計算、設計した資料をもとに、焼き物工場で製作されたそうです。
絵画作品の自由気ままな雰囲気とは異なり、工業製品のような精密さを感じました。
気がつきませんでしたが、絵画作品にも精密な計算があるのでしょうか?
さて、「カイソウ」の漢字表記を調べてみました。
主なものに「回想」、「階層」、「海藻」、「快走」、「会葬」などがあります。
一方、英語タイトルは、「Retrospective」(回顧的な)、「Strata」(地層、階層)です。
「視点の回想」、「視点の階層」、「視点の回顧的階層」、「視点のカイソウ」。
あなたには、どれが一番しっくりくるでしょう?
閑話休題
展示室風景
閉館まで、まだ時間があったので、もう一度、展示を見直すことにしました。
今度は、最初の展示室の奥の壁の一部が透明ガラスになっていることに気がつきました。
ガラス越しに壁の反対側の作品が見えます。
つまり、展示の冒頭で「カイソウ≒階層」(展示室の壁、境界)に気づく大きなヒントが用意されていました。
最初はつかみどころのない印象でしたが、2度見することで、展示の工夫の優しさを実感することができました。
今展は、岡﨑乾二郎を見たことがない方にも、ぜひ見てもらいたいと思います。
エリアレポーターのご紹介
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ひろ.すぎやま
近現代美術、演劇、映画をよく見ます。
作品を見る時は、先入観を避けるため、解説などは後から読むようにしています。
折々に、東海エリアの展覧会をレポートしますので、出かけていただく契機になれば幸いです。
名古屋市美術館協力会会員、あいちトリエンナーレボランティア。
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