「火垂るの墓」「平成狸合戦ぽんぽこ」「かぐや姫の物語」などで知られる、アニメーション映画監督の高畑勲(1935-2018)。1960年代半ばからアニメーション制作のキャリアを積み、半世紀にわたって日本アニメーション表現を革新し続けました。
その創作の歩みを多彩な資料とともに紹介する展覧会が、麻布台ヒルズ ギャラリーで開催中です。

麻布台ヒルズ ギャラリー「高畑勲展 ― 日本のアニメーションを作った男。」会場入口
1959年、東映動画に入社した高畑は、演出助手として携わった「安寿と厨子王丸」で早くも創造力を発揮。「狼少年ケン」ではテレビアニメという新たなメディアにも挑戦し、柔軟な演出力を見せました。
初の長編監督作「太陽の王子 ホルスの大冒険」では、仲間との集団制作により独創的な世界観を構築。高畑の革新的な演出は、以後のアニメーション表現に大きな影響を与えました。

第1章「出発点 ― アニメーション映画への情熱」 ©東映

第1章「出発点 ― アニメーション映画への情熱」 ©東映
東映退社後、高畑は「アルプスの少女ハイジ」などのテレビシリーズで新境地を開拓。日常生活を丁寧に描きながら、登場人物の心の動きを繊細に描写しました。
絵コンテやレイアウトからは、宮崎駿らとの緻密な連携がうかがえます。限られた制作条件の中でも、生活感あふれるアニメーションが生まれていきました。

第2章「日常生活のよろこび ― アニメーションの新たな表現領域を開拓」 ©ZUIYO 「アルプスの少女ハイジ」公式HP:www.heidi.ne.jp

第2章「日常生活のよろこび ― アニメーションの新たな表現領域を開拓」
1980年代以降、高畑は日本を舞台にした作品を中心に制作。「じゃりン子チエ」「セロ弾きのゴーシュ」などでは庶民の暮らしをリアルに描きました。
ジブリ設立後は「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」などで、戦中・戦後の記憶を見つめ直し、「平成狸合戦ぽんぽこ」では自然と人間の共存を問いかけました。

第3章「日本文化への眼差し ― 過去と現在との対話」 ©野坂昭如/新潮社, 1988
戦後80年の節目となる今年は、『火垂るの墓』に関連する新資料も展示。アニメーションを通じて戦争の記憶を語る高畑の姿勢に注目が集まります。
特に貴重なのが、庵野秀明が描いた「重巡洋艦摩耶」のハーモニーセルの発見です。絵画的な彩色技法によるこの1枚は、高畑のリアリズムと庵野の描写力が交差する貴重な成果です。

第3章「日本文化への眼差し ― 過去と現在との対話」より 庵野秀明が担当した「重巡洋艦摩耶」のハーモニーセル ©野坂昭如/新潮社, 1988
晩年の高畑は、日本美術に根ざした絵巻物表現に着目し、人物と背景が一体となる新たなアニメーション表現を模索しました。
その成果は「ホーホケキョ となりの山田くん」「かぐや姫の物語」に結実。手描きの線を生かした水彩画風の表現は、アニメーションに詩的な奥行きをもたらしました。

第4章「スケッチの躍動 ― 新たなアニメーションへの挑戦」 ©2013 Isao Takahata, Riko Sakaguchi/Studio Ghibli, NDHDMTK

第4章「スケッチの躍動 ― 新たなアニメーションへの挑戦」 ©2013 Isao Takahata, Riko Sakaguchi/Studio Ghibli, NDHDMTK
アニメーションを通して世界と人間を見つめ続けた高畑勲。その表現は、時代を超えて今も多くの示唆を与えてくれます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年6月27日 ]