ローマを代表するハイジュエラー、ブルガリ。19世紀末の創業以来、伝統的なジュエリーの世界に革新をもたらし、特に色彩を大胆に用いた独自のスタイルを確立してきました。その華麗で力強いクリエーションは、今日も多くの人々を魅了しています。
このたび、ブルガリのジュエリーにおける「色彩」に焦点を当て、約350点のマスターピースでその変遷をたどる過去最大規模の回顧展が開催されます。メゾンのヘリテージ・コレクションをはじめ、貴重な作品群を通して、宝石の魔術師とも称されるブルガリの創造性を実感できます。

国立新美術館「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」会場入口
第1章「色彩の科学」では、色彩が人間の感覚や感情と結びつく仕組みを科学的に紹介します。ゲーテやシュヴルールの研究により、「原色」の概念が確立しました。展示はルビーの赤、ゴールドの黄、サファイアの青など、宝石の世界で特に重要視される原色の空間から始まります。

《ネックレス》1968年 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション

(右)《ネックレス》1993年頃 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション

(右)《ネックレス》1955年 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション
シェヴルールの「クロマティック・サークル」では、原色から生まれる二次色や補色の関係が体系化され、赤と緑、青とオレンジなどが互いを引き立てます。続くコーナーでは、エメラルドの緑、アメシストの紫、シトリンのオレンジを通して、ブルガリが大切にしてきた二次色の美しさを体感できます。

《「レ・マニフィケ」ネックレスとティアラの組み合わせ》2022年 個人蔵

《ブレスレット》1940年頃 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション

《「ビブ」ネックレス》《ペンダントイヤリング》1968年 リン・レブソン旧蔵 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション
1950年代、ブルガリは宝石の価値ではなく色彩効果を重視し、異なる石を大胆に組み合わせました。ターコイズやアメシストなどを加え、多色構成を生み出しています。赤や黄の暖色と水色やターコイズの寒色を対比させる手法には、シュヴルールの理論が反映されています。

《バングル》1954-55年 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション
展覧会では現代アート作品も紹介されます。ララ・ファヴァレットの《レベル5》は、14色の洗車ブラシが回転し、摩耗しながら鉄板に痕跡を刻むインスタレーション。役割を失ったブラシが空転する様は、時間とともに姿を変え続ける「動きと色彩の変容」という本展のテーマを体現しています。

ララ・ファヴァレット《レベル5》
第2章「色彩の象徴性」では、色彩が文化や環境によって異なる意味を持つことに注目します。人それぞれの感情や価値観に結びつき、異なる文化では同じ色が対照的な象徴性を帯びることもあります。先史時代の洞窟壁画から古代ポンペイのフレスコ画まで、白・黒・赤は芸術の基盤として用いられ、ブルガリのジュエリーでもこうした基本色が巧みに取り入れられています。

2章「色彩の象徴性」
ブルガリの革新的な色使いは「貴石」の概念を見直すきっかけとなりました。緑色の石では、エメラルドは伝統的に貴石とされましたが、ペリドットやジェイド(翡翠)は以前は含まれませんでした。

《ネックレス》1961年 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション
20世紀半ば、ブルガリは「色石の魔術師」と称されました。色は無意識に働きかけ、喜びや悲しみ、怒りなどの感情を呼び起こします。「セルペンティ」では色彩豊かな蛇の鱗が力強さを象徴し、身に着ける人にパワーを与えます。

《「セルペンティ」ブレスレットウォッチ》1965年頃 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション
色彩は光との相互作用によって知覚され、感覚や感情に影響します。ブルガリのジュエリーも光を巧みに取り入れ、作品に命を吹き込んでいます。創業当初は銀細工を中心に制作し、ゴールドやシルバーの輝きが太陽や月光のような効果を生みました。この古代の金属の象徴性は、現在のジュエリーにも息づき、深みとニュアンスを添えています。

3章「光のパワー」
森万里子の新作《Onogoro Stone Ⅲ》は、『古事記』の創造神話に着想を得ています。イザナギとイザナミが天沼矛で滴らせた水滴からオノゴロ島が生まれる物語をもとに、生命の起源や創造の神秘を象徴しています。現代的な素材と象徴性を融合させ、瞑想的な空間を生み出しています。

森万里子《Onogoro Stone Ⅲ》
宝石の印象を決めるのは光です。ブルガリは1930年代以来、カラーダイヤモンドやカボションカットを通して、石本来の色を鮮やかに際立たせてきました。光と色彩を巧みに操ることで、ブルガリのジュエリーは絵画のように感情と美を表現する芸術作品となっています。

《ブレスレット》 / 《コンバーチブル・ソートワール=ブローチ=ブレスレット》1971年頃 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション
展覧会のフィナーレを飾る中山晃子の《Echo》は、水、音、鉱物の光が織りなす繊細な相互作用を探求しています。シャーレ内の水滴が音の振動に反応し、消えゆく様子がリアルタイムで空間に投影され、刻々と変化する時間と色彩の喜びを体感できます。ブルガリの傑作《コンバーチブル・ソートワール=ブレスレット》の色彩や躍動感と響き合い、液体の一滴一滴が輝く生命の本質を映し出します。芸術、自然、物理が融合する空間で、観る者を感覚と時間の旅へと誘います。

中山晃子 《Echo》

《コンバーチブル・ソートワール=ブレスレット》1969年頃 ブルガリ・ヘリテージ・コレクション
ブルガリの色彩に対する飽くなき探究心と創造力を余すところなく体感できる展覧会。ジュエリーと芸術が融合する空間を、ぜひ堪能してください。