古来朝鮮で受け継がれてきた装飾技法に、素材を埋め込むことで文様を表した螺鈿と象嵌があります。ほど同時代に隆盛を極め、朝鮮を代表する装飾技法として定着しました。
漆器にみられる螺鈿は、貝を木地に貼り、漆を塗って研ぎ出すことで文様を表します。日本の正倉院宝物として知られる唐の螺鈿鏡との類似品が朝鮮でも出土しており、ともに中国の螺鈿技術を礎としてことがうかがえます。その後、日本においては蒔絵と併用する形で螺鈿が用いられましたが、朝鮮では一貫して螺鈿のみを追求し、それぞれ固有の発展を遂げました。
一方、高麗青磁にみられる象嵌は、器面に鏨などで文様を彫り込み、素焼きして白土や赤土を埋め、釉薬を掛け再び焼いたもので、高度な技を必要としました。
今展では、花鳥文、山水文などを、鮑貝をはじめ玳瑁や鮫皮も取り入れて装飾された朝鮮時代(1392~1910年)の螺鈿漆器をご覧いただけます。また菊や牡丹、雲鶴文などを象嵌で精緻に表した高麗時代(918~1392年)の青磁も併せてご紹介いたします。いずれも朝鮮の風土に培われた技のきらめきが伝わる優品です。
螺鈿漆器や象嵌青磁が作られる工程を辿りながら、自然の素材一つひとつの技に込められた美のこころを味わう好機会となるでしょう。