福井利佐展 ― むしたちの　おとのせかい ―

手先の器用な日本人の作りだす精緻表現は、いつも世界中の人々を驚かせてきました。古代より神の儀式で使われていた切り絵もその一つです。一般的に、切り絵はモチーフの輪郭を切り抜き、形で表現する作品で知られています。ところが、切り絵アーティスト・福井利佐さんは、ドローイングのような繊細な線を、無数に重ね合わせて、立体感のある表現で作り上げていきます。重なり合った線は動植物や人物に動きをもたらす、その表現は各方面から高く評価されています。現在、発表の場は美術界に留まらず、有名アーティストのＣＤジャケット、作家や人気芸人の書籍のほかファッション界からもアートワークを受けるなど多分野に広がっています。 本展では、福井さんがはじめて手掛ける絵本「むしたちの おとのせかい」（かがくのとも2019年7月号／福音館書店／文：高梨 琢磨・土原 和子）の原画28点を中心に展示します。原画はスズムシのオスがメスに求愛するときのように、人間が聞くことのできる音から感知することができない音まで鳴らす虫たちの様子を、今にも目の前で動き出しそうなくらいリアルに表しています。 「何でもデジタルに頼りきる世の中で、いろんな材料で自らの手でつくり、そのアイディアを具現化するという楽しさや驚きを伝えていきたい」という福井さん。作品をとおして、つくる喜び、楽しみを育んでいただければ幸いです。