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    レポート
    浮世絵から写真へ ─ 視覚の文明開化 ─
    【2025年度中まで全館休館予定】東京都江戸東京博物館 | 東京都
    絵と写真、融合から生まれた「そっくり」の変遷
    昔から日本にあった浮世絵などの絵画と、新たに渡来した写真。幕末から明治にかけて、両者は反発する事なく共存し、それぞれの特徴を混ぜ合わせたような奇妙な表現が生まれました。絵画史や写真史の枠に収まらない不思議な作品が、東京都江戸東京博物館で紹介されています。
    (左から)作者不詳《富士山風景図》 / 作者不詳《水辺の風景図》
    (左から)小川一眞《福沢諭吉》 / 小川一眞《大久保一翁》
    (左から)江﨑禮二《牧口義矩》 / 五姓田芳柳《牧口義矩十歳》 / 五姓田芳柳《明治天皇》
    (左から)伝五姓田芳柳《外国人男性和装像》 / 渡辺幽香《白衣婦人像》
    小川一眞《凌雲閣百美人》より、左手前から「新橋 小とよ」(人気投票3位)、「新橋 小つま」、「新橋 おゑん」、「新橋 勝次」
    (左から)大蔵省印刷局《国華余芳 正倉院御物》 / 大蔵省印刷局《国華余芳 伊勢内外神宝部》
    (左手前)平井菊園《舞美人》ガラス絵
    小豆澤亮一《二代東京府知事 大木喬任》写真油絵 / 小豆澤亮一《三代東京府知事 壬生基修》写真油絵
    (右手前)松岡緑堂《梅ケ谷藤太郎横綱天覧》
    会場は、まずプロローグとして名所絵や美人画を紹介。江戸の人々が関心を持っていた世界をおさらいします。

    日本に写真がもたらされたのは、幕末の長崎です。当初はなかなか撮影の技術を身につける事ができませんでしたが、まず鵜飼玉川が、ついで「西の彦馬、東の蓮杖」と称された上野彦馬と下岡蓮杖が日本初の営業写真師として活躍をはじめます。

    さらに内田九一、横山松三郎、鈴木真一(初代、2代)、江﨑禮二、中島待乳、小川一眞らが後に続き、競うように技を磨いていきました。


    プロローグ、第1章「日本の絵と渡来した写真 ─ 二つの世界 ─」

    「究極のリアル」である写真の登場は、従来の絵師にも強い影響を与えました。写真を意識した結果、容貌だけが異様にリアルな岩倉具視など、バランスを欠いた作品もこの時期には見られます。

    ただ、写真と絵は対立していたわけではありません。女性は従来の描写、男性は写真風に描いた夫婦像などもあり、表現の違いは意識する事なく受け入れられていたのです。

    さらに進んで、絵と写真の融合を図った例もあります。画家の五姓田芳柳と写真師の江﨑禮二は協業し、写真を用いた肖像画を制作。絵と写真の積極的な交流が見て取れます。


    第2章「絵と写真の出会い」

    見たままをそっくりに表現する試みは、幕末から明治にかけて新しい技術や安価な画材が導入されると、さらに活発になります。

    泥絵(どろえ)は、胡粉や土などを染料で染めた泥状の安い絵具で描かれた絵画。舶来染料のベロ藍を多用した、庶民向けの洋風画です。

    ガラスの裏から絵を描くガラス絵は、セル画のような仕上がり。皿や引き手金具のような小道具だけでなく、大型の絵画も作られました。

    ひときわ目を引く風景図は、切り抜いた人物(着色写真)を貼り、背景はガラス絵で描いたもの。螺鈿などの高級素材も用いられており、輸出用の高級品だったと考えられます。


    第3章「泥絵・ガラス絵・写真油絵 ─ 時代が生んだ不思議なモノ ─」

    絵と写真の究極の融合といえるのが、横山松三郎が開発した「写真油絵」です。

    写真油絵は、印画紙の表面だけを残して写真の裏紙を除去し、そこに油絵具で着彩するという凝った技法。海外の製品を参考にしたものですが、開発された技術は日本独自の手法となりました。

    写真油絵の技術は横山の弟子だった小豆澤亮一が受け継ぎ、小豆澤は特許も取得。初代から10代までの東京府知事の肖像も写真油絵で制作しました。ただ、小豆澤は特許を取得からわずか5年後(1890年)に死去したため、幻の技法となってしまいました。


    第3章「泥絵・ガラス絵・写真油絵 ─ 時代が生んだ不思議なモノ ─」

    展覧会のエピローグは、力士の表現の移り変わりです。

    江戸時代から人気が高かった相撲。浮世絵でも数々の力士が描かれてきましたが、明治時代には立体的な表現の錦絵も登場します。現在は、優勝力士を写した大きな額が、国技館に飾られています。

    あまり知られていませんが、優勝額は近年までモノクロ写真に油絵具で色が付けたものが用いられてきました。大判のカラー出力が難しかった時代の名残ですが、独特な存在感は国技館の風物でもありました。62年間にわたって彩色を担当した佐藤寿々江さんが2014年に引退、現在はインクジェットプリントに代わっています。


    エピローグ

    現在の東京都江戸東京博物館も外国人が多く訪れる人気スポットですが、本展を訪れた外国人観光客に最も人気があるのは、ページ最上部でご紹介している高級ガラス絵との事。昔も今も、外国人が求める「日本らしいイメージ」は、あまり変わっていないようです。
    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年10月14日 ]

    浮世絵から写真へ - 視覚の文明開化浮世絵から写真へ - 視覚の文明開化

    岡塚 章子 (江戸東京博物館) (編集), 我妻 直美 (江戸東京博物館) (編集)

    青幻舎
    ¥ 2,500


    ■浮世絵から写真へ に関するツイート


     
    会場
    会期
    2015年10月10日(土)~12月6日(日)
    会期終了
    開館時間
    9:30~17:30
    ※入館は閉館の30分前まで。
    休館日
    月曜日休館(月曜日が祝日または振替休日の場合は翌日)
    住所
    東京都墨田区横網1-4-1
    電話 03-5777-8600(ハローダイヤル)
    公式サイト https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/
    料金
    一般 1,350円(1,080円)/大学生・専門学校生 1,080円(860円)/小学生・中学生・高校生・65歳以上 680円(540円)
    ※()内は20名以上の団体料金
    展覧会詳細 浮世絵から写真へ ─ 視覚の文明開化 ─ 詳細情報
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