1964年生まれのイ・ブル。当時の韓国は朴正煕大統領による軍事政権で、左翼系の反政府運動家の家に育った彼女は幼いときから権力や社会システムに対する抵抗感の中で成長しました。
ソフト・スカルプチャー
大学では彫刻を専攻、活動の初期はソフト・スカルプチャーを身にまとったパフォーマンスが中心でした。1997年にMoMAで発表した「壮麗な輝き」は装飾をした生魚が腐敗していく様子を展示したものですが、悪臭のために会期の途中で撤去。彼女は失意に沈みましたが、一躍その名は有名になりました。
会場
会場は「つかの間の存在」「人間を超えて」「ユートピアと幻想風景」「私からあなたへ、私たちだけに」の4セクション。漆黒の空間に吊り下げられる白いサイボーグや、床がミラー張りの展示室には都市模型のような作品など、広い森美術館に栄える大型の作品が並びます。
「サイボーグ」シリーズと「アナグラム」シリーズ
会場の途中には、イ・ブルの制作スタイルが垣間見えるような「スタジオ」が再現されています。本展のために制作された愛犬へのオマージュ作品「秘密を共有するもの」の模型や数々のドローイングなどが紹介されています。
イ・ブルの「スタジオ」を再現
やなぎみわ、束芋、松井冬子ら、日本での30代から40代の女性アーティストの活躍は目覚しいものがありますが、隣国の韓国で20年にわたって活動をつづけてきたイ・ブルも同世代。今後もますます注目度があがりそうです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2012年3月1日 ]