いつの世においても、ファッションリーダーは時代の華です。
山種美術館の今回の企画展は、絵画の中の「よそおい」に着目。おしゃれな男女がずらりと並びます。
会場入口から展覧会は3章構成、まず第1章は「クールな男」です。男がおしゃれなのは、ライオンや孔雀だけではありません。
猪飼嘯谷(いかいしょうこく)の《楠公義戦之図》は楠公(なんこう)、すなわち楠正成を描いた作品。鮮やかな甲冑姿に、見目麗しいイケメンぶりが光ります。猪飼嘯谷はあまり聞かなくなった作家ですが、明治神宮聖徳記念絵画館にも作品が収められている歴史画の大家です。
展覧会チラシにも登場する知的な横顔は、支倉常長。守屋多々志による《慶長使節支倉常長》で、1981年の作品です。この作品は、描かれた着物に注目。凹凸の模様がはっきりと分かります。
順に、猪飼嘯谷《楠公義戦之図》 / 守屋多々志《慶長使節支倉常長》続いて第2章は「おしゃれな女」。美人画は、絵画のジャンルでは定番のひとつ。裸婦図も魅力的ですが、今回はファッションをお楽しみください。
近代日本画の美人画の第一人者といえる、上村松園。女性初の文化勲章受章者でもある松園の美人画は、卑俗さを一切廃した、清らかな香り高さが魅力です。
順に、磯田又一郎《花の中》 / 北田克己《ゆふまどひ》 / 上村松園《杜鵑を聴く》 / 上村松園《春風》 / 上村松園《春のよそをひ》第3章は「よそおう男女」です。
池田輝方は雅号からも分かるように、水野年方の門人で鏑木清方の弟弟子。93歳まで長生きした清方はよく知られていますが、38歳と早世の輝方は官展(文展・帝展)での活躍が忘れられつつあります。第10回文展で特賞を得たのが《夕立》。男性の粋な縞の着物と同時に、女性の後れ毛の色っぽさも目に留まります。
山種美術館顧問の山下裕二先生が「重要文化財級」と絶賛するのが、美しい平安時代の装束の男女を描いた松岡映丘の《山科の宿》。動画では分かりにくいですが、斜めから見ると、キラキラと輝く雨の表現もお楽しみいただけます。
順に、池田輝方《夕立》 / 松岡映丘《山科の宿 雨やどり・おとづれ》現在では馴染みがない作家・作品であっても楽しめる展覧会。このように作品の質が高く、幅が広い豊富なコレクションを持つ美術館のことを「蔵が深い」と言うそうです。
山種美術館の常連の方でもお楽しみいただけそうです。
また、今回の展覧会では「きもの割引」を実施中。会期中に着物でご来館のお客様は、団体割引料金で入館可能、さらにプチギフトもご用意しています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年5月19日 ]※掲載の作品はすべて山種美術館所蔵