スペイン第2の都市、バルセロナで活動したアントニ・ガウディ。世界遺産に登録された建築物をはじめとする作品群は、今も多くの人を引き付けてやみません。
一方の井上雄彦さんは、バスケ漫画の名作「SLAM DUNK」をはじめ、「バガボンド」「リアル」などで知られる漫画家。近年は東本願寺の屏風絵など、漫画の枠を超えて活動し、注目を集めています。
ガウディと井上雄彦さんのコラボレーション。いったいどのような展覧会になるのか、想像もできないままに内覧会へ向かいました。
展覧会の構成はほぼ時系列で、ガウディの人間像とその作品を約100件の資料で紹介。さらに井上雄彦さんが描くガウディの物語は、ガウディへの理解を深めてくれます。
第1章は若き日のガウディが建築家として認められるまで。大学での課題設計などを見ることができます。
ガウディは幼いころリウマチを患い、子供時代に外で思うように遊ぶことができませんでした。ですが、その時に自然の中にある様々な形態を観察したことが、その後大きな成果となって表れていきます。
第2章では建築家として成功し、様々な仕事を手掛けたガウディの円熟期を紹介します。この時期の作品はグエル公園やカサ・ミラ、カサ・バトリョなど、今もバルセロナ観光の定番スポットとなっている場所ばかりです。
この章で一際目を引くのは、曲線を多用した壁面が印象的なカサ・ミラの大きな模型。完成当時より「ラ・ペドレラ(石切場)」と呼ばれ、今では世界的に人気の観光地です。今回の展覧会の創作のために、バルセロナに滞在した井上雄彦さんがアトリエを構えたのも、このカサ・ミラです。
会場ではカサ・バトリョの扉などの建具や、家具なども展示。緩やかな曲線を用いたガウディらしい美しいデザインです。
会場の床も要チェック。第1章に敷かれた緑色の六角形のタイル。こちらは本国から輸入したガウディデザインのもので、現在はバルセロナの大通りであるグラシア通りにも用いられています。細かな曲線模様は海洋生物がモチーフ。
第2章の床にはカラフルなモザイクタイルの魚やウミガメが泳ぎだす演出があります。大きなウミガメに出会えるかは運次第です。
第3章はガウディが終生その建築に心身を尽くしたサグラダ・ファミリアを取り上げます。ガウディはまだ実績に乏しかった31歳のころ、サグラダ・ファミリアの2代目主任建築家に就任。それから131年、現在は9代目が現場を指揮します。
建築現場では、模型を元に仕事をしていたガウディ。わずかに残っていた資料も戦禍で喪失し、現在は復元模型と弟子が残した完成予想図を分析しながら、建設が進んでいます。展覧会ではそのスケッチや、模型などを見ることができます。
今も日々刻々とその姿を変え続ける未完の大作は、ガウディ没後100年となる2026年の完成を目標に工事が進んでいます。
井上雄彦さんが表現するガウディの物語を追いながら進む展覧会。その最後は内覧会で思わず涙ぐんでしまいました。レポートではご紹介できませんので、ぜひ現地でご覧ください。
井上さんは「ガウディを勉強して、表現したいことはたくさんあった。そのなかで、自分が一番大切に思っていることで、ガウディとの共通項はこれじゃないかなと思ったところを最終的に描いた」と語りました。
建築の実物を見せることができないガウディの展覧会ですが、見どころは十分。井上雄彦さんのファンの方も、ガウディ建築がお好きな方も楽しめる展覧会になっています。
展覧会は約1年かけて金沢、長崎、神戸、仙台へ巡回します。
[ 取材・撮影・文:川田千沙 / 2014年7月11日 ]