今や全世界からの観光客が必ず目指すといっても過言ではない京都清水寺界隈。八坂塔のすぐ近く、三年坂にある“清水三年坂美術館”を訪ねました。
幕末明治の七宝、金工、蒔絵、京薩摩を展示するこの美術館は日本の誇る超絶技巧を間近で鑑賞できる貴重なスポットです。雑踏の中、ふっと一歩引いた空間に美術館の扉が開きます。

落ち着きある外観の美術館は三年坂にあります
今回の企画展は「絹の輝き 繍(ぬい)の技 里帰りした刺繍絵画」と題した展覧会です。並ぶ作品は絵筆の絵画ではなく刺繍絵画や天鵞絨(ビロード)友禅です。近づいて見てみると細い細い絹糸が線や面を作っていることに気が付きます。

2F-刺繍絵画展示風景
日本の風景だけでなく、西洋の油絵や写真などを手本にした鳥や動物の図柄も多くあり、その毛並みや細かな筋肉の動き・表情を緻密に表現し、微妙な色合いの違いを巧みに織り込みながら刺繍されています。光や見る角度によって光沢が変化し、動きがある立体感が表現されています。
この「獅子図」は「加藤」と銘が入っているので制作者がわかっていますが、多くの作品は無銘で制作した職人がわかりません。個人作者より分業を主とする京都の伝統工芸品の制作過程を意味しているのでしょうか。鶉たちが粟穂を啄む図には蜘蛛の巣があるのですが、本物と見間違うようなリアルさに驚くばかりです。

刺繍 獅子図(一部)作者:加藤達之助 制作:4代飯田新七

刺繍 粟穂に鶉図 無銘など
明治に入り東京遷都によって主要な得意先の多くが京都を離れ、人々の服装も着物から洋服へと移るなど、京都の織物や染色業界に衰退の兆しが見えはじめました。そうした中、新しい販路を海外に見出し、室内を装飾するための額や屏風へと仕立てた美術染織品が開発され、その多くが海を渡っていきました。
千總や高島屋など京都の呉服商により制作された名品は、高度な染織技術を土台として世界で高く評価されましたが、逆に散逸という憂き目を生んでしまったようです。西洋の油絵やポートレートをもとにした肖像画風な仕上がりのものなどもあり、身近に飾られていたことが伺えます。

天鵞絨絵画に添えられた説明書

天鵞絨友禅 清水寺図 制作:12代西村總左衛門

左)天鵞絨友禅菖蒲図一ツ提煙草入 無銘 右)獅子牡丹図一ツ提煙草入 無銘

刺繍 漁師図 制作:伝4代飯田新七
館内メンテナンスのためでしばらく休館していた清水三年坂美術館。。近年、刺繍絵画がメディア等でも紹介され、再評価されつつある今、美術染織品の名品を間近で見ていただきたいという思いで展覧会を企画されたということです。卓越した日本の技術を伝える館としての意気込みを感じる展覧会となっています。
常設展示にも多数の所蔵品から七宝や金工など繊細な細工に目を奪われる逸品が有銘無銘を問わず並んでいます。

1F 常設展示 金工 蟹盃台
ミュージアムグッズにも京都らしい品が並びますが、“今回一押し”と紹介くださったのは所蔵品をイメージしたここにしかないオリジナルワッペン!

ミュージアムグッズ
清水寺界隈の喧噪を逃れて、なんと静謐な空間と心落ち着く時間を過ごせる場所なのでしょう。途中作品展示替えもありますが、会期は6/2まで。次回6/12からは「加賀蒔絵と京蒔絵」の企画展となります。
周辺にはそれはもうたくさんの休憩スポットがありますが、私は少し離れた京阪五条への坂の途中にあるノーガホテルのベーカリーで一息。15時までならルーフトップバーへ上がって京都の景観を楽しみながら味わうこともできるようです。静かな清水散策に是非!

ノーガホテル清水 ベーカリーでEAT-IN
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2024年3月15日 ]