もともとサンスクリット語で「真髄・本質を得る」という意味のMandala(マンダラ)。曼荼羅は、密教が説く信仰世界を視覚的に表したものですが、日本ではその意味を広げ、浄土を描いた図や、神仏習合思想に基づく絵図など、信仰世界を表す絵画にまで使われるようになりました。
本展では「密教の曼荼羅」「浄土の曼荼羅」「垂迹の曼荼羅」に分けて、密教法具とあわせて38件を紹介します。
会場近年修復が行われていた重要文化財《大日如来像》は、本展が修復後の初公開です。
大日如来は密教の教主。こちらは左人差し指を右手で包む印相(手指の組み合わせ)なので、金剛界の大日如来です。
この作品は、豪華な台座が特徴。威厳に満ちた顔立ちの、平安時代後期の名品です。
重要文化財《大日如来像》《金剛界八十一尊曼荼羅》も重要文化財。五つの大きな円の中心に配された金剛界五仏をはじめ、八十一の諸尊で構成されています。
動画では少し分かりにくいですが、ほとけ様は面長の顔、つり目、張った肩、引き締まったプロポーションが特徴。唐時代の中国から持ち帰った曼荼羅を鎌倉時代に転写したもので、当時の中国の様式を色濃く残しています。
重要文化財《金剛界八十一尊曼荼羅》展示室2では「浄土の曼荼羅」「垂迹の曼荼羅」が紹介されています。
阿弥陀如来が住む極楽浄土を描いた図は浄土図を代表する絵画で、日本では世界や宇宙を意味する曼荼羅の語を使って、浄土曼荼羅と呼ばれるようになりました。
仏や菩薩などの異国の仏(本地仏)が姿を変えたものが、日本の神(垂迹神)であるという考え方が、本地垂迹説。神仏習合の概念です。本地仏や垂迹神、またその対応関係が密教の曼荼羅を参考にして描かれるようになりました。
展示室2根津美術館では、本展にあわせて館蔵品図録「根津美術館蔵 密教絵画 鑑賞の手引き」も刊行(1,200円)しました。
密教のふたつの経典(大日経と金剛頂経)、それぞれの世界観を表した曼荼羅(胎蔵界曼荼羅と金剛界曼荼羅)、それぞれの世界での大日如来の手の組み方の違いなど、密教絵画の初心者にも分かりやすく解説した良書です。大判写真で紹介されている作品の部分図を見ながら、じっくりとお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年7月26日 ]