展覧会は、ニューヨークのアビー夫妻が収集した日本の近現代の竹工芸作品「アビー・コレクション」の里帰り展。同コレクションが日本で披露されるのは、今回が初めてです。
日本では九州から東北まで自生する竹(一部は北海道も)。極めて成長が早く、強靭で弾力性に富む竹は、生活の道具から建築資材まで、古くから幅広く使われてきました。
日本の竹工芸の水準を広く世界に知らしめたのは、ロサンゼルスの故ロイド・コッツェンです。米国の化粧品大手ニュートロジーナの社長だったコッツェンは、膨大な数の竹工芸を収集。展覧会はアメリカを巡回し、2004年に日本でも紹介されました。
ダイアン&アーサー・アビー夫妻も、1999年にニューヨークのアジア協会で展示されたコッツェンのコレクションを見て、竹工芸の美しさと優雅さに感激。自らも収集をはじめました。
「作品収集の基準は作品への愛情」と語るアビー夫妻ですが、そのコレクションには歴史的に重要な作家のほか、第一線で活躍中の気鋭の作家も含まれ、充実した内容は高く評価されています。
展覧会は、冒頭の展示室でダイジェスト的に主要作品を紹介。次いで、日本における主な竹工芸の生産地である、東日本・西日本・九州と、地域別に作品を展示。途中で現代の竹工芸作品をまとめて見せていきます。
東日本で竹工芸の近代化を進めたのが、栃木出身の二代飯塚鳳斎(いいづかほうさい)と、その弟の飯塚琅玕斎(ろうかんさい)。大正から昭和初期に展覧会に出展し、竹工芸の「作家」として、その地位を確立させました。
戦後も東日本からは多くの優れた竹工芸家が生まれ、日展などを舞台に独創的な作品を発表しています。
一方の西日本。大阪は茶の文化の中心地だったため、花籠や盛籠などの竹製品は鑑賞の対象でした。文人らの支援を受けた籠師は、国内外の博覧会などで活躍しました。
美術製籠家として自らの創作に銘を刻したのが、初代早川尚古斎(はやかわしょうこさい)。初代田辺竹雲斎(たなべちくうんさい)は、竹工芸の近代化を進めました。
九州は、大分・別府が竹工芸の産地。優良な竹材を背景に、名工が活躍しました。生野祥雲斎(しょうのしょううんさい)は、大戦を挟んだ時期に竹工芸作家として一時代を築き、1967年に竹工芸初の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
展覧会は大分・東京・大阪とまわる巡回展。アビー・コレクションだけでなく、それぞれの館が所有する作品もあわせて展示し、竹工芸の造形美を感じてもらう構成です。東京展では工芸館が所有する近代工芸の名品60点も展示されています。
なお、この後に開催される大阪展(2019年12月21日~2020年4月12日、大阪市立東洋陶磁美術館)では、四代田辺竹雲斎による竹のインスタレーションも設置される予定です。
伝統工芸の作家でありながら、ダイナミックなインスタレーションも手掛ける四代田辺竹雲斎は、今もっとも注目を集めているアーティストのひとり。展示構成の導入部分に設置されるとの事、こちらも楽しみです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年9月12日 ]
※写真の作品は全てアビー・コレクション メトロポリタン美術所蔵
The Abbey Collection,“Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.”