ゆるキャラの元祖?
ヒエロニムス・ボスから始まる「奇想」の系譜をたどる展覧会が兵庫県立美術館で開催中です。
まず、ヒエロニムス・ボスについて簡単にご紹介しましょう。
ボスはドイツの古都アーヘン出身で、本名はヒエロニムス・ファン・アーケン。移り住んだセルトーヘンボスという都市で生涯を過ごしたことから、ボスという通称名で呼ばれるようになりました。彼は熱心なキリスト教信者で、人間の愚行や罪をテーマとした作品を多く制作しました。
現存する作品はわずか40点足らず。
ボスオリジナルのキャラクターや世界観は当時、諸外国にも知れ渡るほど人気を博し、ブリューゲルを始め、多くの画家がボスを真似た作品を作りました。
展覧会は三章構成。
第一章では、ボスやブリューゲルら15世紀から17世紀のフランドル美術を紹介。
続く第二章では、19世紀末から20世紀初頭にかけてのベルギー象徴派・表現主義に着目し、ボスに起源を持つ「奇想」がどのように受け継がれたのかを紹介。
最後の第三章では、20世紀のシュルレアリスムから現代にかけての美術作品に見られる「奇想」を紹介しています。
ボスに始まる「奇想」の系譜はそれぞれの時代で、どのような軌跡をたどってきたのでしょうか。
こちらは、今回チラシにも使われている、ヒエロニムス・ボス工房《トゥヌグダルスの幻視》(1490-1500年頃)です。
描かれているのは、アイルランドの修道士、マルクスが12世紀半ばに記した、『トゥヌグダルスの幻視』の逸話です。
放蕩にふけっていたトゥヌグダルスは、ある時3日ほど仮死状態に陥ってしまいます。
その時、彼の魂は天国と地獄をさまようことになったのですが、この作品に描かれているのは地獄の様子です。
作品には、もうこれ以上飲めない、というほどにワインをグイグイと飲まされている人や、槍で刺されそうになっている人、沼のようなところにズブズブと飲み込まれそうになっている人など、様々な懲罰方法が描かれています。
しかし、よく見てみると、懲罰を下す側のキャラクターからはどこか愛らしさを感じます。
こちらは右から、ヤン・マンデイン《聖クリストフォロス》(制作年不詳)と、ヤン・マンデイン《パノラマ風景の中の聖アントニウスの誘惑》(制作年不詳)です。
ヤン・マンデインは、聖クリストフォロスや聖アントニウスを主題とする作品に、独自のアレンジを加えたヒエロニムス・ボス風の怪物や悪魔のモチーフをたくさん登場させています。
左側の作品は、フェリシアン・ロップス(原画)、アルベール・ベルトラン(彫版)《娼婦政治家》(1896年)。
19世紀にベルギーで活躍した、フェリシアン・ロップスは自らの豊かな想像力を武器に、象徴主義的な作品を数多く制作したことで知られています。
この作品では、目隠しされた、娼婦の格好をした政治家が彫刻、音楽、詩、絵画の擬人像を踏みつけて堂々と立っています。
ロップスは本作品で、現代の政治家には私利私欲に目がくらんだ者がいる、ということを表現しています。
こちらは、現代の作品です。
トマス・ルルイ《生き残るには脳が足りない》(2009年)。
巨大化した脳を支えきれなくなったように、ドスっと頭部が落ちてしまっています。
口元からは嘔吐物が流れ出ており、心身ともに疲れ切っている様子が見て取れます。
ルルイは、この作品で、たくさんの人が理想的な身体を求め、崇めてきたものの、そこには際限がないために、成れの果てには自滅に至ることを示しています。
最後に展覧会風景をご紹介します。
こちらは、ピーテル・ブリューゲル(父)〔原画〕、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン〔彫版〕、ヒエロニムス・コック〔発行〕の「七つの大罪シリーズ」の版画です。
本展覧会では、「第二のボス」と謳われた、ピーテル・ブリューゲルの下絵をもとに作られた版画が多数展示されています。
展覧会の一角にはこんなスペースも。
ブリューゲルの作品をもとにしたアニメーションが上映されています。
これを見たら、見落としてしまっていた細部に気づくかもしれません。
ボスから始まる「奇想」の系譜を是非会場でご体感ください。
エリアレポーターのご紹介
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胤森由梨
美術が大好きなアートライターです。美術鑑賞に関わる仕事を広げていきたいと思っています。現在、instagram「tanemo0417」「artgram1001」でもアート情報を発信中です!
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