1905年、パリで開催された展覧会サロン・ドートンヌの一室をドラン、マティス、ヴラマンクらの作品が飾りました。強烈な原色を発し、奔放で勢いある筆触で彩られたそれらの作品群は、批評家ルイ・ヴォークセルを「あたかも野獣(フォーヴ)の檻の中にいるようだ」と言わしめます。それによってフォーヴィスム(野獣派)と名づけられた彼らの活動は数年のうちに幕を閉じ、以後それぞれの造形が追求されていきます。
フォーヴィスムの中核となって活躍したアンドレ・ドラン(1880-1954年)は、固有色からの色彩の解放に心血を注ぎ、溢れんばかりのエネルギーを全面に押し出しました。大きな衝撃と革新を印象づけるその実験的な試みから間もなく、続いてセザニスムや古典回帰的な制作を試み、それらを経てドラン独特の深みのあるドラマティックな画面を多く生み出すに至ります。
本展では、アンドレ・ドランの青春時代をはじめ、生涯にわたって傾倒した古典芸術を基盤に自らの芸術を形成、成熟、展開したドランならではの造形世界を紹介します。さらに、ドランと同時代を過ごし、深く親交を結んで影響を与え合ったマティス、マルケ、ヴラマンク、ピカソらの作品を交えながらドランの画業の軌跡を追います。また、「ドランを巡る影響と交流」というテーマのもと、ドランに多大な影響を与えたコローやセザンヌ、そして、ドランの作風から影響を受けた安井曽太郎、ドランの画才や人柄を日本に発信した藤田嗣治や岡鹿之助らの作品を紹介いたします。本展を通じ、多くの皆様がドランとその仲間たちの魅力に触れていただければ幸いに存じます。