京都に生まれた三沢は東京芸術大学で彫刻を学んだ後、2000年から動物をモチーフにした「Animals」シリーズを発表。樟の丸太から削り出された実物大の動物たちは生き生きとした存在感を放ち、2001年には第20回平櫛田中賞を、2005年には第15回タカシマヤ美術賞を受賞しました。
トラ、キリン、ゾウなどの野生動物やイヌ、ネコ、ブタなど身近な動物は、既存のイメージを踏襲しながらも新鮮な造形感覚によって大胆にデフォルメされ、ユーモアとシニカルさを含んだ愛らしい、親しみやすい魅力に満ちた作品となっています。同時に、自然素材の木から新たな形を彫り出していくアニミスティックな行為は日本に古くから伝わる技法であり、作品に見られる鑿跡で覆われた表面の触覚性や量感は具象彫刻としての木彫の醍醐味を呈示しているといっても過言ではありません。そこには三沢が幼い頃から奈良や京都の仏像に親しんだ影響がうかがえます。自身が彫刻家となった今、その伝統的な木彫の世界に、鋭敏で現代的な感性で迫り、新たな彫刻表現の可能性を押し広げているといえるでしょう。
本展ではこうした三沢厚彦の魅力を、新作を含む「Animals」シリーズを中心に、粘土の「animals」シリーズや絵本にもなったドローイング、さらにはYNG(奈良美智+graf)とのコラボレーションとなる白クマ小屋展示などプラスアルファの要素を加えて紹介します。
ポップかつプリミティブな造形、現代的な感覚と伝統的な手法が共存する点において、また、木彫が本来持っていたぬくもりを伝える点において、三沢の作品は純粋な彫刻表現へ回帰するだけでなく、サブカルチャーと美術との関係など現代美術が抱えるさまざまなテーマを率直に提示してくれるでしょう。存在感いっぱいの動物たちと向き合いながら、彫刻の楽しさや魅力をあらためて感じる好機となるはずです。
また「三沢厚彦 アニマルズ+」展の会期中には、豪華ゲストを迎えての対談と三沢厚彦自らが自作について語るギャラリー・トークを予定しています。1回目の対談ゲストは、近世絵画から岡本太郎まで独自の視点で日本美術史に新風を吹き込む山下裕二氏。動物をモチーフにした表現について、ときには仏像など古美術と比較しながら三沢に迫ります。さらに2回目のゲストは俳優の寺田豊氏。画家の寺田政明を父にもち自身も芸術に明るい寺田さんが同じ表現者として、作品作り・役作りについて三沢さんと語り合�ます。ギャラリー・トークでは実際の木を用意しての公開制作も予定。木の香りに包まれながら作家がチェーンソーや鑿を手に木と対峙する姿は必見です。