神奈川近代文学館では作家・開高健(1930~1989)の没後10年にあたる1999年、故・牧羊子夫人の協力のもとに、初の本格的な「開高健展」を開催し好評を得ました。夫人没後の2003年には、茅ヶ崎市により、市内の旧宅に開高健記念館が開設され、御遺族からの寄贈資料を中心に多くの開高健関係資料を保存し、公開するセンターとして活動を続けています。本展は、開高の生誕80年を記念し、記念館を運営する開高健記念会と、県内ゆかりの文学者として開高健資料の収集・保存を続けてきた神奈川近代文学館とが共催で行う〈文学館交流展〉です。1930年、大阪に生まれた開高は、寿屋(現・サントリー)勤務時代に上京、1957年発表の「パニック」で注目を浴び、翌年「裸の王様」により芥川賞を受賞して文壇に地歩を固めました。その後、1964~65年、泥沼のベトナム戦争への従軍取材を経験、そこから代表作「輝ける闇」(1968)、「夏の闇」(1971)を生み出し、揺るぎない評価を得ます。1974年以降は、茅ヶ崎市東海岸南に居を移し、1989年に58歳の若さで亡くなるまで、この地で「玉、砕ける」「耳の物語」「珠玉」などの名作を発表し続けました。またその間、小説以外でも、世界中を駆け廻った釣魚紀行「フィッシュ・オン」「オーパ!」などで幅広い読者を獲得し、現在もその人気は衰えることを知りません。本展では、2000年以降に発掘された多くの新資料を中心に、常に外へと向かう旺盛な活動の中で小説、エッセイ、ルポルタージュなど多彩な執筆を行いながら、世界の様々な事象の核心を捉えて作品に刻み込んだ開高健の軌跡を、編年体による展観であらためて見つめ直します。