飯川雄大は、時間の相対性や知覚のゆらぎに着目し、映像、写真、立体などを用いた作品を制作してきました。
これまで、24 時間にわたり街の風景を定点撮影した作品や、サッカーのゴールキーパーから遠く離れた時にどういう動きや表情を見せるかに注目した作品など、他愛のない風景や周縁にあるものを注意深く観察することによって、日常から見過ごされているものを掬い上げ、中心をずらした世界を差し出します。
本展のタイトルである「デコレータークラブ」とは、周りにある海藻や小石などを身につけて擬態する蟹のことで、飯川はこの蟹を「衝動とその伝達」にまつわるモチーフとして様々なプロジェクトを行ってきました。デコレータークラブを見つけた時の様子を語る5人のインタビューで構成した映像作品《衝動とその周辺にあるもの》では、衝動の本質とは何か、そして眼差しの共有の難しさを提示しながら、その別の可能性を探っています。私たちは普段どのように、場所や空間を認識しているでしょうか。
今回の「デコレータークラブ 配置・調整・周遊」では、元公民館のA-Lab の構造を使って、事物の全容を断片から想像していくプロセス自体の作品化を試みます。飯川によって巧妙に仕掛けられた「衝動と伝達」を知るための装置を通じて、この世界が周縁の集積によってできていることに触れる時、私たちの視線は新たな広がりを得るのかもしれません。
また、本展は園田学園女子大学つながりプロジェクトと連動して企画されています。同プロジェクトは、学生が学部、学科を超えて、チームで地域の課題解決を行う授業です。尼崎市の地域課題に即したテーマについて、尼崎市や商工会議所、地元企業、地域の方々と様々な交流をし、人間的な成長を図る目的で実施されています。本展覧会との連動は22あるプロジェクトの1つで、今回15人の学生が参加しています。