自然布とは、植物の繊維を用いて織りなされる布のことです。江戸時代中期に入って、国産の木綿が普及してくる遥か昔、人々は身の回りに自生する木々や草から糸を作り、布を織りなしてきました。
布が登場したのは縄文時代からで、最初は編みによるものでした。次いで、経糸と緯糸を用いた織物が始まったとされています。材料は苧麻や大麻、藤、葛などの他、北海道ではオヒョウ、沖縄では芭蕉が使われ、和紙が生産されると紙縒りも糸として利用されてきました。
樹皮を剥ぐのは大変な力仕事で、これを煮たり叩いたりしながら柔らかくして織維を取り出し、糸を績んで機を織っていきます。もちろん、苧麻や大麻の場合も、繊維を取り布に仕上げていくまでの労力は並大抵ではありません。布を作る仕事の多くは家々の女性達によって行われ、少しでも着易い布になるように知恵が絞られました。
このように、地道で厳しい仕事を経て生まれる自然布は、それぞれの植物ならではの風合いが豊かにあらわれ、原始的で力強い魅力を放っています。
本展では、日本各地の植物繊維を用いて織られた自然布を約70点ご紹介します。江戸時代以前に作られ、実際の生活で役立てられた古作品の他、近現代の作家達がその独自の素材感に着目し、自身の作品として製作したものまで、様々な作品をご覧いただける貴重な機会です。
また自然布は、木綿の普及によって次々に各地から姿を消していった為、現在は産地の人々が保存会などを結成し懸命に後世に繋いでいるものです。本展が、自然の恵みから生まれる自然布の魅力に触れると共に、木綿以前の日本の衣料に思いを馳せる機会になれば幸いです。