ジョン・ラスキン生誕200年を記念した本展。ラファエル前派だけでなく、周辺も含めて紹介していきます。
第1章は「ターナーとラスキン」。英国絵画史に燦然と輝く風景画家の、J.M.W.ターナー。ただ、1840年前後からの荒々しい表現は、強く非難されていました。
若き批評家ラスキンは、ターナーの先駆的な表現をいち早く評価しました。1843年に「現代画家論」(Modern Painters)第一巻を発表、一躍その名を世に知らしめました。
ラスキンは自身も絵画のレッスンを受けています。第1章には、ラスキンによる水彩や素描も並びます。
第2章は「ラファエル前派同盟」。ロイヤル・アカデミーの保守性を批判して結成された、ラファエル前派同盟。感傷的な描き方を否定し、中世美術のように分かりやすく、誠実な表現を目指しました。
若い彼らの行動を理解する人は多くありませんでしたが、ラスキンは力強く擁護。ミレイやロセッティらとの交流を深めていきます。
展覧会の中心といえるのが、この章です。メインビジュアルのロセッティ《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》も含めて、大きな展示室は撮影可能です。
第3章は「ラファエル前派周縁」。綿密な自然観察、主題の誠実な描写など、ラファエル前派の思想は、1850年代初頭には広く受け入れられるようになりました。
年長のウィリアム・ダイスらも、同種の画家と見なされるようになりました。確かに、細やかな自然描写などはラファエル前派に通じます。
他方で、フレデリック・レイトンやジョージ・フレデリック・ワッツらは、古代ギリシア・ローマ美術を再評価した絵画を制作。その枠組みは広がっていきました。
第4章は「バーン=ジョーンズ」。やや年少のエドワード・バーン=ジョーンズは、ラファエル前派第二世代の画家です。
ラスキンの芸術論や建築論に心酔したバーン=ジョーンズは、ロセッティに弟子入り。世俗的な現実と乖離した作品で、19世紀末の英国で最も称賛された画家になりました。
第5章は「ウィリアム・モリスと装飾芸術」。バーン=ジョーンズの盟友、ウィリアム・モリスも、ラファエル前派第二世代です。
1861年に、あらゆる種類の装飾芸術を扱う「モリス・マーシャル・フォークナー商会」を設立(1875年に単独経営の「モリス商会」に改組)。「生活と芸術との一致」を目指しました。
モリスの行動は、後に「アーツ・アンド・クラフツ運動」に発展。その考えは、今日の「デザイン」にも繋がっています。
「全ての人が満ち足りた生活を送るべき」と説いたラスキン。150年前のメッセージですが、今の私たちにも強く響きます。
展覧会は、三菱一号館美術館からスタートした巡回展。東京展の後は、久留米市美術館(6/20-9/8)、あべのハルカス美術館(10/5-12/15)に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年3月13日 ]