「ヒエログリフ」(象形文字)「素材」「色」の3つの大きなテーマで、古代エジプト美術を読み解く企画展。まず第1章は「ヒエログリフの魔術」です。
ヒエログリフは古代エジプト文字のひとつで、6,000を超える記号があります。古代エジプト人が身のまわりで日常的に目にした具体的な対象を表現しており、どの記号も見たままの特徴をとらえてデザインされています。
エジプト古王朝の識字率は約1%といわれており、ヒエログリフを学校で教わることができるのはエリートの子どもだけでした。会場にはユニークな書記学校の模型も展示されています。
第1章「ヒエログリフの魔術」第2章は「素材の魔術」。古代エジプト美術の作品は石だけでなく、金や銀やブロンズなどの金属、水晶やラピスラズリなどの宝石、そして木製と、多くの素材が使われています。
巨大な棺は一木造(いちぼくづくり:一本の木材から作る手法)。このような巨木は古代エジプトでは採れないため、遠方との物資がやりとりされていた事が分かります。
この章には、逆に極めて小さな作品もあります。座る女神、ライオン、カエル、スカラベ(フンコロガシ)、ネコなどは、全て手のひらに収まるほど小さなアミュレット(護符・お守り)。古代エジプトにもあった超絶技巧、お持ちの方はミュージアムスコープ必携です。
第2章「素材の魔術」第3章は「色の魔術」。古代エジプト美術にはさまざまな色が見られますが、言葉は4種類しかありません。緑から青・藍・紫までを含む「ワジ」、赤・オレンジ・黄色は「ジェセール」、白が「ヘジ」、黒が「ケメト」です。
古代エジプト美術では作品が本来の色と全く違う場合がありますが、これは色彩が象徴的に用いられているため。ただ、色が持つ意味はひとつでは無い事に注意が必要です。例えば、ジェセールは太陽の色=ポジティヴな性質であると同時に、血や砂漠の色として捉えられる場合はネガティヴな意味合いも含んでいます。
第3章「色の魔術」松濤美術館と古代エジプトは、やや意外に思える組み合わせ。大きな椅子がある2階の第2展示室(サロンミューゼ)に、スフィンクスや棺が囲むように並ぶさまは、なかなかユニークです。1Fエレベーターホールには、ファラオの衣装も用意されています。ここで着用すれば記念撮影もOKです。
本展は全国巡回展で、
北海道立旭川美術館、
福井県立美術館に続いて、
松濤美術館が3館目。最後は
群馬県立館林美術館となります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年10月8日 ]©Fondation Gandur pour I’Art, Geneva, Switzerland.