マリ=エティエンヌ・ニト(1750-1809)がパリに開いた金銀細工店をルーツに持つショーメ。本展は、卓越したサヴォワール=フェール(職人技)から生まれたショーメのクリエーションを総覧する企画です。
会場構成は時代順ではありませんが、冒頭には歴史的な作品を展示。戴冠衣裳のナポレオン1世の宝石をセッティングしたのは、マリ=エティエンヌ・ニト。皇妃ジョゼフィーヌとも縁が深く、1805年には公式ジュエラーになりました。
絵画に描かれたジュエリーも。ナポレオン3世から贈られた、三つ葉のクローバーのブローチをつけているのは、皇妃ウジェニーです。
前半最大の見せ場が、3章の「戴冠!ティアラの芸術」。皇妃ジョゼフィーヌにより第一帝政期に再び脚光を浴びるようになったティアラを、ショーメは数多く制作してきました。
展示室に入ると、ティアラのデザイン見本であるマイヨショール(洋銀などでつくられたモデル)とともに、19世紀前半から現代までのティアラが20点。華麗なデザインと眩い輝き、夢のような世界が広がります。このコーナーは撮影可能です。
1~3章中国やインドなど東洋の文化からインスピレーションを受けた作品も数多く作っているショーメ。また、植物や昆虫など自然の形態から着想を得た作品も目立ちます。
ショーメの高い創造力を示しているのが、トランスフォーム(変化)するジュエリー。ネックレスとしても使えるティアラ、チョーカーとしても使えるヘッドバンドなど、ひとつの作品が別の作品に変わる事で、身に着ける女性もトランスフォームします。
展覧会最後は、ショーメと日本について。ショーメ創業者のマリ=エティエンヌ・ニトは、王妃マリー・アントワネットが所有していた日本漆器の鑑定に加わるなど、両者は古くから関係性を持っていました。今回のショーメ展のために制作されたパリュール(ジュエリーのセット)《シャン ドゥ プランタン》は、西洋の文化圏と日本文化とのマリアージュ(結婚)をイメージしています。
4~8章ジョサイア・コンドルの設計で1894年に建てられた洋風事務所建築がベースとなっている
三菱一号館美術館。小部屋が続く独特の展示空間は、歴史的なブランドであるショーメの宝飾品を見事に引き立てています。
まさにこの美術館でしか、成し得なかった展覧会です。他館への巡回もありませんので、くれぐれもお見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年6月26日 ]