没後60年を経て、神話化が進む魯山人。漫画『美味しんぼ』の海原雄山のモデルといえば、イメージしやすいかも知れません。忖度だらけの現代から見ると、幾多の傲慢エピソードが逆に清々しく思えます。
「料理の着物」としてやきものに向き合ったため、魯山人の陶芸といえば食器です。ただ本展では、その作陶のベースとして茶道に目を向けました。
中世以来、日本文化の核といえるのが茶道。魯山人が引き受けた名料亭「星岡茶寮」も、そもそもは茶の湯のための施設です。魯山人が追及した美においても、茶道は常に中心的な位置づけでした。
展覧会は7章構成です。「書・漆・画」を集めた5章以外は、ほぼ年代順です。
20代後半に朝鮮半島や中国大陸を旅行した事もあり、魯山人の初期のやきものは中国陶磁風。ただ、徐々に中国趣味は後退していきます。
名品として知られる《萌葱金襴手鳳凰文煎茶碗》は、新潟の豪商から依頼され、金に糸目を付けずに制作した作品です。鳳凰の文様は金箔です。
1927年に自らの窯を完成させた後、荒川豊蔵らをともなって朝鮮半島の古窯跡巡りへ。持ち帰った土で器物を作っています。魯山人の茶碗をいち早く評価したのは、小林一三でした。
魯山人は近代の陶芸家の中では、かなり早い時期から桃山陶の魅力に目を付けた人です。織部・志野・黄瀬戸など、桃山陶に倣った作品をいくつも制作。土の板に脚をつけ、端をやや反らせた「俎鉢(まないたばち)」は、魯山人オリジナルのフォルムです。
戦後になると、古典復興を目指す陶芸家たちが新しい活動を進めますが、先駆者といえる魯山人はほとんど関わりを持ちませんでした。ただ、魯山人邸の離れに仮寓したイサム・ノグチをはじめ、後年の芸術にもさまざまな影響を与えています。
魯山人ゆかりの名料亭・八勝館(名古屋市)が所蔵する作品と、世田谷美術館の塩田コレクションを中心とした本展。古美術というと、関東の人はどうしても京都に目がいきますが、実は中京圏も「蔵の深さ」は折り紙付き。首都圏での展覧会で、これだけ中京から名品が揃う機会は滅多にありません。
碧南市藤井達吉現代美術館で開幕した巡回展。千葉展の後に、滋賀県立陶芸の森 陶芸館に巡回します(9/14-12/1)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年7月2日 ]