古来から、歌枕として詠まれてきた嵐山。多くの貴族や文化人に愛されたこの地に誕生したのが、福田美術館です。
美術館のオーナーは、アイフル株式会社創業者の福田吉孝氏。江戸時代から近代にかけての日本美術を紹介する美術館として、出身地であり起業の地でもある京都に設立しました。娘の川畑光佐氏が館長を務めます。
立地は桂川沿いで、渡月橋すぐ近くという絶好のロケーション。嵐電(京福電鉄)嵐山駅から徒歩4分です。
和モダンの建築は、安田幸一(安田アトリエ主宰)氏による設計です。蔵をイメージした展示室、縁側を思わせる廊下など、日本的な意匠で統一しました。
庭には水盤が設けられ、廊下から見ると水盤に嵐山が映る見事な眺望。館内のカフェからは渡月橋が一望できます。
展示室は、1階のギャラリー1から大階段を上って2階のギャラリー2に至る動線。2階には眺望の良いパノラマギャラリーも設けられています。
開館記念の展覧会は、約1,500点の所蔵品の中から選りすぐりの名品を紹介するコレクション展です。会期を2期に分けて、約80点の作品を展示します。
ギャラリー1は、明治以降の絵画。福田美術館では円山四条派の流れを汲む京都画壇の作品収集には力を入れており、第Ⅰ期では竹内栖鳳や上村松園らの作品が展示されています。
橋本関雪《後醍醐帝》は第六回文展の出品作ですが、その後は約100年未公開だった作品。御所を脱出する後醍醐帝の、緊迫感あふれる場面を描きました。
福田コレクション最多の画家は、横山大観(36点)。6曲1双の《富士図》は、いかにも大観らしい大作です。
2階に進んで、ギャラリーIIは江戸絵画。与謝蕪村、円山応挙、長沢芦雪など、18世紀の京都で活躍した画家の作品が中心です。
与謝蕪村《茶莚酒宴図屏風》は、支援者たちが費用を出しあって高価な絹や絵具を蕪村に与え、描かせた作品。長らく公開されていなかった事もあり、美しい色彩が残っています。
肉筆浮世絵も多数所蔵。北斎や広重の美人画などが展示されています。
パノラマギャラリーは洋画です。数は多くありませんが、モネ、ピサロ、マティス、シャガールなど、桂川が見える明るい展示室で楽しめます。
展覧会の会期に合わせて、嵐電は「MUSEUM TRAIN『走る美術館』」が運行。車体や車内を福田コレクションで装飾した特別車両で、新しい嵐山の観光スポットをピーアールしています。
展覧会はⅠ期・Ⅱ期でほぼ全ての作品が展示替え。美術館用のコレクションとして初めて手に入れた重要文化財の渡辺崋山《于公高門図》や。初公開の狩野探幽《雲竜図》はⅡ期の展示です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年9月30日 ]