父はタンゴの楽師、母はダンサーという芸能一家に生まれたシモン。人形制作は10代の頃から手掛けていますが、20歳でドイツのシュルレアリスト、ハンス・ベルメールの球体関節人形の写真に出会って衝撃を受け、それまでの人形と材料を全て捨てたといいます。
国内外で高く評価されているシモンの人形。展覧会は6つのテーマで構成され、「無垢なるもの ─ 少女、少年」から始まります。
「無垢なるもの ─ 少女、少年」球体関節人形は動かせる事が特徴ですが、シモンは中に機械を入れ、自動で動く人形を作った時期もあります。「自ら動くもの ─ 機械仕掛」で紹介されます。
機械科の学生だった荒木博志が、シモンが運営する人形学校「エコール・ド・シモン」に入学し、二人三脚で制作したものです。ただ「自動で動く」とはいえ、動力はゼンマイ。
ゼンマイを巻く=人が命を吹き込む、という事にはこだわっていました。
「自ら動くもの ─ 機械仕掛」シモンは1967年~71年に、唐十郎が率いる状況劇場に参加し、アングラ演劇の女形として評判になりました。それでも人形作家としての想いは絶ち難く、演劇とは縁を切り、1973年に個展「未来と過去のイヴ」を開催しました。「誘惑するもの ─ 女」にはその時の人形も並びます。
個展のために借金を背負い、背水の陣で挑んだシモン。結果は出品した12体が2日で完売という大成功を収めました。
「誘惑するもの ─ 女」「天上のもの ─ 天使、キリスト」には、宗教性の高い作品が並びます。
1987年、シモンが43歳の時、作家でフランス文学者の澁澤龍彦が死去。澁澤と深い親交があったシモンは大きな喪失感に見舞われ、しばらく仕事が手につかなかったといいます。
翌年に制作されたのが《天使 ─ 澁澤龍彦に捧ぐ》。故人に捧げる副葬品としての人形は、人形の根源的な役割でもあります。
「天上のもの ─ 天使、キリスト」前章では「聖なるもの」がテーマですが、逆に「俗なるもの」を追及した結果、たどり着いたモチーフは自分自身。「自らを作るもの ─ シモン」で紹介されます。
体の一部が切り取られ、内部を露にした全身像の男性は《ピグマリオニスム・ナルシシズム》。ギリシャ神話のピグマリオンは、自分で作った象牙の人形を溺愛した末、人形に命が与えられて妻になります。
「自らを作るもの ─ シモン」最終章は「未完なるもの、そしてベルメールへのオマージュ」です。
《木枠でできた少女》シリーズは、あえて制作途中のように見せている作品。表面まで作られているのは身体の一部で、他の場所は木の骨組みがそのまま露出。「何かが欠けた、普通ではない形には意外なほど力強さがある」とシモンは言います。
2011年から手がけている新作も、仕上げの粗っぽさが特徴的。「50年ぐらい時間がたった感じ」を表現したというシモンは、死後の自分を人形に投影したのでしょうか。
「未完なるもの、そしてベルメールへのオマージュ」シモンは自らが主催する人形教室「エコール・ド・シモン」の作品発表で新作を発表していますが、まとまった形での展覧会となると、首都圏では14年ぶり。特に若い人は、その名前や作品は書籍など知っていても、実物は見たことが無い方もいるかもしれません。
完璧な美とエロス、愛おしさとサディズムが共存するような四谷シモンの世界。じっくりとお楽しみください。
なお6月21日(土)、7月5日(土)には四谷シモンさんご自身が来館し、ギャラリートークを開催。6月28日(土)には作家の津原泰水さんとシモンさんのトークショーも開催されます。
そごう美術館の後は、2014年10月11日(土)~11月30日(日)の日程で
西宮市大谷記念美術館に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年6月11日 ]